海水と血液は「同じミネラルバランス」なのか?

― 科学的に検証してみました ―

インターネットやSNSで
「海水と人間の血液は同じミネラルバランス」
という表現を見かけたことはありませんか?

実はこの考えには歴史的な背景があり、かつてフランスの生理学者 ルネ・カントンが
「生命の起源は海であり、体液はその名残である」
と唱えたことが大きく影響しています。

このロマンあふれる思想が広く知られるようになり、「海水=血液」といった表現だけが独り歩きしてしまったのです。

しかし、実際のミネラル濃度を比べるとどうでしょうか?

でも海水を測るのは…正直難しい!

当社のICP-MSは、微量元素を高精度に測定する装置です。

そのため、海水のように 塩分濃度(約3.5%)が極めて高い試料は苦手です。

海水をそのまま測定すると装置に大きな負担となるため、大幅な希釈が必要になります。

しかし、希釈しすぎると今度は微量元素が検出限界を下回り、正確な比較ができなくなる
という問題があります。

そこで今回は、実際に海水を測定するのではなく、

  • 血液:一般的な基準値
  • 海水:標準海水の公表データ

を用いて、主要ミネラル(電解質)を比較することにしました。

単位はわかりやすく mg/L(1Lあたりのミリグラム量)に統一しています。

濃度で比較すると…別物

まず海水の原液そのものは、圧倒的に濃度が高く、血液と同じになることはあり得ません。

表:海水と血液のミネラル濃度

ミネラル海水(mg/L)血液(mg/L)比率
ナトリウム10,8003,2003.4
塩素19,3003,7005.2
カリウム4001562.6
カルシウム410964.3
マグネシウム1,3002259

特にマグネシウムは血液と比べると59倍も海水の方が濃度が高いことがわかりました。

また、仮に海水の塩分濃度を血液と同じ程度に薄めた場合のifの試算も行いました。

表:海水(希釈)と血液のミネラル濃度

ミネラル海水(mg/L)血液(mg/L)比率
ナトリウム2,8003,2000.9
塩素5,0003,7001.4
カリウム1021560.7
カルシウム106961.1
マグネシウム3442216

海水と血液には共通して多くの元素が含まれていますが、ミネラルの質量比で比較すると明確な違いが見られます。とくに海水では マグネシウム濃度が突出して高いため、「ミネラル濃度が同じ」とは到底いえません。

塩分濃度を揃えた場合、比較対象となるのは カリウム・カルシウム・マグネシウム ですが、この3つでも差がはっきり現れます。

  • カルシウムは海水と血液で比率が比較的近い
  • カリウムは 血液のほうが約1.5倍高い
  • マグネシウムは 海水が血液の約16倍と極端に多い

つまり、同じ元素が含まれているという点では共通点があるものの、その質量比は大きく異なるため、「海水=血液と同じミネラル組成」という説は科学的には成立しません。

結論

  • 海水と血液のミネラル濃度は同じではない
  • 塩分濃度を揃えても一致しない(特にマグネシウム)

「海水=血液」という表現は、19〜20世紀に提唱された進化論的なロマンが広まった結果であり、科学的な事実とは言えません。

当社では今後も、こうしたよく語られる健康情報を科学的視点から検証した情報を発信してまいります。

ら・べるびぃ予防医学研究所
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