毛髪は「排泄器官」なのか?

― 排泄と排出を考える ―

検査会社、特に毛髪分析を扱う会社でなければ、あまり関心を持たれないテーマかもしれません。
しかし私たちは日々、毛髪という検体を扱う中で、どうしても避けて通れない問いに直面します。

「毛髪は排泄器官なのか?」

当社でもこれまで、「毛髪は排泄の役割を担っている」という説明をしてきました。

では、ここであらためて考えてみたいと思います。
そもそも「排泄」とは何なのでしょうか。

排泄と排出の違い

一般に排泄とは、体内で不要になった物質を代謝・処理したうえで意図的に体外へ出す仕組みを指します。

代表的な排泄経路は、尿や便です。これらは明確に「排泄の主役」と言えるでしょう。

一方で、排出という言葉は、より広い意味を持ち、意図的かどうかは問わずに結果として体外へ出た現象全般を指します。

この定義に照らすと、毛髪は「排出している器官」であることは間違いありません。

なぜなら、毛髪には高濃度の有害金属が取り込まれているからです。

毛髪は「意図的に」有害金属を取り込んでいるのか?

ここで一つ、疑問が浮かびます。

毛髪は、有害金属を体にとって不要なものとして認識し、意図的に取り込んでいるのか?

それとも、たまたま通過点に、取り込みやすい形の有害金属が存在していただけということなのでしょうか。

水銀を例に考える

毛髪に多く取り込まれる有害金属として、水銀があります。

大まかな推定ですが、摂取した水銀のうち約8%程度が毛髪に取り込まれると考えられています。※なお、水銀の排泄の大部分は便で行われます。

排泄の主役である便と直接比較することは難しいため、ここでは尿中水銀量を基準にしてみます。

尿中を「1」とした場合、毛髪はおおよそ「0.3」となります。

これは決して小さな値ではなく、毛髪も一定の役割を果たしていると評価できる数字です。ただし、繰り返しますが、排泄の主役はあくまで尿と便です。

なぜ毛髪は水銀を取り込みやすいのか?

その理由は、水銀の「形」にあると考えられます。

私たちが日常的に摂取する水銀の多くは、金属水銀や水銀イオンではなく、メチル水銀です。主な摂取源は魚介類です。

このメチル水銀は、ほぼ100%吸収されシステインと結合しメチオニンというアミノ酸によく似た構造になります。ほぼ「アミノ酸の顔をした物質」と言ってよいでしょう。

いわば優等生の皮をかぶった半グレのような存在です。

毛髪は「材料」として取り込んでいるのでは?

毛髪はケラチンというタンパク質でできています。
タンパク質はアミノ酸の集合体です。
つまり、アミノ酸は毛髪の材料そのものです。

メチオニンによく似た形をした「メチル水銀+システイン」の複合体を、「お前は有害物質だから排除してやる」という判断で取り込んでいるのか、それとも、「ちょうどいい、毛髪の材料になる」と誤認して取り込んでいるのか。

後者の方が、現実的ではなのではないかと考えます。

もし体が「メチル水銀+システイン」の複合体を完全に「悪者」と認識しているのであれば、血液脳関門を通過させるはずがないと思うのです。

ヒ素との対比が示すもの

ここで、もう一つ重要な事実があります。

日本人が最も多く摂取している有害金属はヒ素です。水銀・カドミウム・鉛の10〜20倍の摂取量があります。

では、ヒ素は水銀の10〜20倍、毛髪に取り込まれているのでしょうか?

答えは NO です。

ヒ素の毛髪への取込量は水銀の約1/30〜1/40程度です。

(※もちろん個人差はあります)

この事実は、毛髪が「有害金属を無差別に排出しているわけではない」ことを示唆しています。

毛髪は排泄器官なのか?(私見)

毛髪に一度取り込まれた水銀が、再び体内に戻る機構は、現在のところ確認されていません。

その意味では、毛髪に取り込まれ、結果として無毒化される

という点から、毛髪が排泄の一部を担っている、という考え方は間違いではないと思います。ただしそれは、

  • 体が有害物質として選択的に排除しているのか
  • アミノ酸に似た構造ゆえに、材料として取り込んでいる結果なのか

この点については、現時点では断定できません。

水銀は結果として毛髪に取り込まれることで体外へ出ていくため、広い意味では「デトックス」と言えると思います。

しかしその本質が「排泄」なのか、「偶発的な排出」なのか、まだまだ考える余地があるのではないでしょうか。

これはあくまで、会社としての見解ではなく、私個人の考えです。

最後までお読みいただきありがとうございました。

ら・べるびぃ予防医学研究所
「知ることは、すべてのはじまり」
ミネラル分析の専門機関として、毛髪・血液・飲食物など様々な検体を分析しています。
2000年の創業以来、皆さまの健康に役立つ検査や情報を提供しています。
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執筆者:筒井大海

リチウムはアルツハイマー病の救世主になれるか? 最新研究より

皆さんは「リチウム」と聞いて何を思い浮かべますか? スマートフォンのバッテリー(リチウムイオン電池)でしょうか。あるいは、精神科で処方される「双極性障害(躁うつ病)」のお薬でしょうか。

実は今、このリチウムがアルツハイマー病の予防や治療に重要な鍵を握っているかもしれないとして、科学界で大きな注目を集めています。

そもそも「リチウム」ってどんなもの?

最新の研究に触れる前に、まずはリチウムという元素の正体について簡単におさらいしておきましょう。

  • 元素番号3の「最も軽い金属」

水素、ヘリウムに次いで3番目に軽い元素であり、金属としては世界で最も軽い物質です。水に浮くほど軽く、ナイフで切れるほど柔らかいというユニークな性質を持っています。

  • 私たちの体にも存在する「微量元素」

リチウムは電池の材料として有名ですが、実は土壌や海水、そして私たちの体の中(血液や脳など)にもごく微量に存在しています。私たちは日頃から、飲み水や野菜などを通じてリチウムを自然に摂取しているのです。

  • 脳を「守る」特別な働き

リチウムには、脳神経を保護するいくつかの重要な働きがあることがわかっています。

  • 神経の修復: 神経の成長を促す因子の働きを助ける。
  • 過剰な興奮を抑える: 脳内の情報を伝える物質(ドーパミン、セロトニンなど)のバランスを整え、神経がダメージを受けるのを防ぐ。
  • ゴミ掃除のサポート: 脳内の不要なタンパク質を排出する「オートファジー」という仕組みを活性化させる。

このように、リチウムは古くから「脳のコンディションを整える微量元素」として知られてきました。

1. 衝撃の研究:リチウムが足りないとアルツハイマー病になる?

世界的な科学誌『Nature』に掲載された論文(Aronら, 2025)によると、マウスを使った実験で驚くべき事実が判明しました。

体内に自然に存在する「リチウム」が不足するだけで、アルツハイマー病に特有の症状が引き起こされるというのです。

  • 何が起きたか?: リチウムが欠乏すると、脳内にゴミ(アミロイドβやリン酸化タウ)が蓄積し、神経の炎症やネットワークの喪失が進行しました。
  • 防げるのか?: 逆に、リチウムを補給したマウスでは、これらの病理的な変化や記憶力の低下が予防できたのです。

「リチウム不足が原因の一つなら、それを補えばいいのでは?」――そんな期待が高まります。

2. 現実の壁:既存の薬では効果が見られず

しかし、ここで慎重な議論を投げかけたのが、日本の藤田医科大学による最新のメタ解析です。

研究チームは、これまでに人間を対象に行われた複数の臨床試験データを統合して分析しました。その結果、意外な結論に至りました。

  • 結論: すでに医薬品として承認されている「炭酸リチウム」は、人間のアルツハイマー病による認知機能低下を抑える効果が認められなかったのです。

マウスでうまくいったことが、なぜ人間ではうまくいかないのでしょうか?

3. 鍵は「リチウムの種類」にある?

藤田医科大学の研究チームは、この「期待(マウス)」と「現実(人間)」のギャップについて、非常に興味深い指摘をしています。

実は、マウスの実験で効果が示唆されているのは、現在薬として使われている「炭酸リチウム」ではなく、「オロチン酸リチウム」という別の形態のリチウムである可能性があるのです。

  • 炭酸リチウム: 長年、双極性障害の治療に使われてきた承認薬。
  • オロチン酸リチウム: 日本でも海外でも、現時点では医薬品として認められていない未承認の形態。

研究チームは、今後はこの「オロチン酸リチウム」が人間に有効かどうか、安全性を検証する新たな臨床試験が必要だと述べています。

4. リチウムと自殺率 ― 学会で聞いた興味深い考察

これは研究論文ではなく、学会で伺った考察レベルのエピソードですが、興味深い指摘がありました。

環境化学物質合同大会において、「自殺と地表水の汚染について」について言及された先生がいらっしゃいました。

現在の水道水は、活性炭などを用いた浄水処理が行われていますが、その過程でリチウムも除去されてしまっている可能性があるのではないか、という考察です。

科学的に確立された話ではありませんが、「リチウムが脳機能に影響を与える」という視点から考えると、完全に否定できるものではなく、印象に残るお話でした。

また大分大学医学部精神神経学講座の寺尾岳先生もリチウムと自殺率について言及されています。

https://www.med.oita-u.ac.jp/hospital/topi/kokaikoza/20241110/1-shiryo-terao.pdf

当社の取り組みと今後の課題

当社では、毛髪中のリチウム測定を行っています。
ただし現時点では、機械的に基準値を設定することはできても、「どの範囲が生理的に望ましいのか」という理想値については、十分なエビデンスが揃っていません。

今後は、こうした最新研究も踏まえながら、リチウムと健康の関係について、より深い検討を進めていきたいと考えています。

まとめ

今回の2つの研究から学べることは、「リチウムという元素がアルツハイマー病のメカニズムに深く関わっていそうだが、今の薬を飲むだけでは解決しない」ということです。

「オロチン酸リチウムが良いならサプリメントで摂ればいい」と考えるのは早計です。リチウムは過剰摂取による毒性もあるため、自己判断での摂取は非常に危険です。

「リチウム補充」というアルツハイマー病への期待が見えてきた今、それをどう安全かつ効果的に人間に届けるか。

今後の臨床試験の結果が非常に気になります。

【出典】

ら・べるびぃ予防医学研究所
「知ることは、すべてのはじまり」
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2000年の創業以来、皆さまの健康に役立つ検査や情報を提供しています。
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2026年3月19日 身近な調剤薬局と薬局

病院の帰りに立ち寄る調剤薬局。
コンビニやドラッグストアで何気なく手に取るお薬。

私たちは「薬」にとても身近に暮らしていますが、
その仕組みや理由まで知っていることは、意外と多くありません。

たとえば…

  • クリニックから少し離れた調剤薬局だと、なぜか費用が違うことがある?
  • お薬手帳って、何のためにあるの?
  • 薬剤師さんは、なぜ毎回いろいろ質問してくるの?
  • 処方箋には実は期限があるって本当?
  • 第一類医薬品が「空箱」で並んでいる理由は?
  • OTC医薬品って何を指しているの?
  • コンビニで売っている薬と薬局の薬はどう違う?
  • 調剤薬と一般用医薬品の違いって?
  • 最近、院内処方が減っているのはなぜ?
  • ジェネリック医薬品を積極的にすすめられる理由
  • 「ピカ新」「ゾロ新」「ゾロ」って、何が違うの?

こんな疑問に、できるだけわかりやすく、日常目線でお話しするセミナーです。

医療や薬の知識は、「具合が悪くなってから」ではなく、元気なときに知っておくほど役に立つもの。

✔ 薬局をもっと上手に使いたい方
✔ 薬や医療費の仕組みを知りたい方
✔ 家族の健康管理に役立てたい方

そんな方におすすめの内容です。

「今さら聞けない」を、「あ、そういうことだったのか」に。
ぜひお気軽にご参加ください。

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開催日:2026年3月19日(木)12時~13時

演題:「身近な調剤薬局と薬局」

講師:ら・べるびぃ予防医学研究所 専務執行役員 米川豊

費用:無料

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