超加工食品は骨にも影響する?16万人の最新研究からわかったこと

「超加工食品は健康に良くない」と聞くことが増えました。

では、骨の健康にはどうなのでしょうか?

2026年に発表された大規模な英国バイオバンクの研究では、16万人以上を対象に、超加工食品(UPF)の摂取量と骨密度・骨折との関係が調査され、注目を集めています。

超加工食品が多い人ほど、骨密度が低かった

今回の研究対象は、なんと16万3,855人。約12年間という長期にわたり、骨密度と骨折リスクについて調査が行われました。

その結果、超加工食品の摂取量が多い人ほど、

  • 大腿骨頸部
  • 大腿骨転子部
  • 腰椎
  • 全身

といった複数の部位で骨密度が低いという関連が認められました。

さらに、超加工食品の摂取量が多いほど、股関節骨折のリスクは約10%高く、すべての骨折では約3%高いという結果に。特に「股関節骨折」との関連は、高齢期の生活の質(QOL)を保つ上でも見逃せないポイントです。

なぜ、超加工食品と骨が関係するの?

「なぜ超加工食品が骨に影響するの?」と気になりますよね。ただ、今回の研究だけでは、そのメカニズムの断定まではされていません。

背景として考えられているのは、超加工食品の摂取量が多い食生活を送っていると、野菜、果物、魚、乳製品、大豆製品などの摂取が不足しがちになるという点です。つまり、カルシウムやたんぱく質など、骨の維持に不可欠な栄養素が足りなくなっている可能性があります。

つまり、

「超加工食品を食べると、直接骨が弱くなる」 というよりも、 「超加工食品中心の食生活によって栄養バランスが崩れ、それが骨の健康に悪影響を及ぼしている可能性」

が高いと考えられています。

「超加工食品=骨に悪い」と断定はできない?

ここで大切なポイントがあります。

今回の研究は、あくまで「大規模な観察研究」です。そのため、超加工食品が直接原因となって骨密度を低下させたり、骨折を引き起こしたりという「因果関係」を証明したものではありません。

「だから、超加工食品は一切口にしてはいけない!」と神経質になりすぎるのは早計です。

大切なのは「減らす」ことより「足す」こと

骨の健康を考えるとき、超加工食品を100%完璧に排除しようとストイックになりすぎる必要はありません。

忙しい日に冷凍食品やインスタント食品に頼ることだってありますよね。それ自体を必要以上に怖がる必要はないのです。

それよりも意識したいのは、

  • 魚や卵、大豆製品、乳製品を意識して選ぶ
  • 野菜や果物をプラスする

という「栄養価の高い食品をしっかり食べる(足す)」という視点です。

「超加工食品をゼロにする」ではなく、「体にいいものを味方につける」。この少し前向きな食生活の見直しこそが、将来の骨の健康を守る第一歩になるのではないでしょうか。

参考文献

Hu H, Huang H, Cai L, Qi L, Zhou T. Associations of ultra-processed food intake with bone mineral density and fractures in the UK Biobank. British Journal of Nutrition, 2026.

Associations of ultra-processed food intake with bone mineral density and fractures in the UK Biobank – PMC

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髪の毛10本から6つのミネラルを分析する【からだミネラル検査ジュポン】をリリースしました

いつも、ら・べるびぃ予防医学研究所をご利用いただき、ありがとうございます。

このたび、髪の毛10本から6つのミネラルを分析する新しい検査、「からだミネラル検査ジュポン」をリリースいたしました。

分析するのは、

  • カリウム
  • カルシウム
  • マグネシウム
  • 鉄
  • 銅
  • 亜鉛

の6つのミネラルです。

「もっと少ない髪の毛で検査できたら」

これまで、当研究所の毛髪ミネラル検査では、髪の毛を100本程度ご用意いただいていました。

29~34項目のミネラルや有害金属をまとめて分析できるというメリットがある一方で、

「髪の毛を100本も取るのはちょっと……」

と、検査をためらわれる方もいらっしゃったと思います。

私たちは、もっと気軽に自分の身体に興味を持ってもらえる検査ができないかと考えてきました。

その一つの答えが、髪の毛10本でした。

10本なら、長い髪の方だけでなく、短い髪の方でもご用意いただきやすくなります。

「ちょっと自分のミネラルを見てみたい」

そんな気持ちからでも、検査を始めていただけるように。

できるだけハードルを下げ、まずは自分の身体を知るきっかけになってほしい。

そんな思いから生まれた検査です。

なぜ「ジュポン」なのか

商品名を考えるとき、私たちらしい名前にしたいと考えました。

当研究所の「ら・べるびぃ(la bellevie)」は、フランス語の「la belle vie」から名付けています。

「よりよい人生」という意味です。

自分の身体について知ること。

自分の身体に興味を持つこと。

それは、よりよく生きていくための一つのきっかけになると、私たちは考えています。

そこで今回、どこかフランス語のような響きがあり、なおかつ、この検査の特徴を一言で表せる名前はないかと考えました。

そして生まれたのが、「ジュポン」です。

10本。

髪の毛10本から検査することを、その名前に込めました。

「ジュポン」という名前を聞いたときに、

「あ、10本なんだ」

と覚えていただけたら嬉しいです。

たくさん調べる検査と、気軽に始める検査

今回の「からだミネラル検査ジュポン」は、従来の検査に取って代わるものではありません。

従来の「からだミネラル検査」は、29~34項目を対象としており、ミネラルだけでなく有害金属まで幅広く分析します。

一方、ジュポンは6つのミネラルに絞ることで、髪の毛10本で検査できるようにしました。

検査ジュポン従来のからだミネラル検査
測定項目6項目29~34項目
髪の毛10本約100本

「まずは基本的なミネラルを見てみたい」という方にはジュポン。

「ミネラルだけでなく、有害金属まで幅広く調べたい」という方には、従来のからだミネラル検査。

目的に合わせて選んでいただければと思います。

なお、ジュポンと従来の検査では分析法が異なるため、それぞれの検査結果の数値を直接比較することはできません。

自分の身体に興味を持つ、そのきっかけに

私たちは、検査をすることそのものが目的ではないと考えています。

検査をきっかけに、

「自分の身体ってどうなっているんだろう?」

と、少しでも自分自身に興味を持っていただくこと。

そして、食事や生活習慣を振り返ったり、これからのよりよい人生について考えたりするきっかけになること。

それが、私たちが検査を提供する意味の一つだと思っています。

髪の毛10本。

これまでより、少しだけ気軽に。

「知る」よりも、まず「興味を持つ」。

その最初の一歩として、「からだミネラル検査ジュポン」をご利用いただけたら嬉しく思います。

からだミネラル検査ジュポンのお申込み

発売記念クーポンコード:10pon

※からだミネラル検査ジュポンのみのクーポンです。

2026年10月31日まで 1,000円OFF

こちらからお申込みいただけます。

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そしてからだミネラル検査プラスにもクーポンをご用意しました。

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これからも、皆さまがご自身の身体に興味を持ち、よりよい人生を考えるきっかけとなる検査をお届けしてまいります。

刺身のミネラルを測ってみた、第2弾。マグロのセレンに注目してみました

前回、「刺身のミネラルを測ってみた」という記事を書きました。

今回はその第2弾です。

前回の記事はこちらです。

今回、私たちが注目したのは――

日本の魂、マグロです。

大好きです。

マグロ。

お寿司でも、お刺身でも、ついつい選んでしまいます。

そんな身近なマグロですが、ミネラル分析をしてみると、ちょっと面白い結果が出ました。

今回分析したのは4種類

今回分析したのは、

  • キハダマグロ
  • ビンナガマグロ
  • ブリ
  • サーモン

の4種類です。

それぞれのお刺身を試料として、ミネラルを分析しました。

ただし、今回の分析は1個体ずつを代表するデータではなく、あくまで「今回測定した1切れの刺身」の結果です。

魚は個体差もありますし、部位や産地、季節などによっても成分は変わる可能性があります。

そのため、

「この魚は必ずこの数値!」

というものではありません。

あくまで、

「今回測ってみたら、こんな結果だった」

という、ひとつの参考データとして楽しんでください。

マグロに飛び抜けていたミネラル

今回の結果を見ていて、特に目を引いたミネラルがありました。

それが……

セレンです。

セレン。

知る人ぞ知る。

セレンです。

セレンは、体内の抗酸化に関わる酵素などの構成成分として働く必須微量元素です。

そして、もう一つ。

魚を語るときにセレンが注目される理由があります。

それが、

水銀との関係です。

セレンと水銀の関係についてはさまざまな研究が行われており、セレンが水銀による影響を軽減する可能性についても研究されています。

もちろん、

「セレンが多いから水銀は大丈夫!」

と単純に言える話ではありません。

ここは大事なところです。

水銀には水銀の話があります。

では、今回のセレンの結果を見てみましょう。

今回測定したセレンの値

100gあたりに換算すると、今回の結果は次のようになりました。

魚セレン
キハダマグロ155 μg
ビンナガマグロ139 μg
ブリ48 μg
サーモン49 μg

今回の測定では、

キハダマグロ:155 μg

ビンナガマグロ:139 μg

だったのに対して、

ブリ:48 μg

サーモン:49 μg

でした。

マグロ2種類は、ブリやサーモンと比べて、

およそ2~3倍。

かなり差がありました。

わお。

なぜマグロはセレンが多い?

ここが気になるところです。

「なぜマグロではセレンがこんなに多かったんだろう?」

魚の種類によって、含まれるミネラルには違いがあります。

魚は種類によって、食べるものも、生息する場所も、成長速度も違います。

そのため、魚の体内に含まれる元素の量も一律ではありません。

今回の結果だけでは、なぜマグロのセレンが高かったのか、その理由までは分かりません。

ただ、

「マグロではセレンがかなり高かった」

ということ自体は、今回の分析で確認できました。

こういうところが、実際に測ってみる面白さですね。

「マグロは水銀が多い」と「セレンが多い」

マグロというと、どうしても気になるのが水銀です。

実際、マグロなどの大型魚を語るときには、水銀について触れられることが多くあります。

一方で、魚と水銀の話を調べていると、

「マグロは水銀を蓄積するのに、なぜ平気で生きていられるのか?」

という疑問から、セレンとの関係に注目した研究もあります。

中には、

「マグロはセレンが多いから、水銀の影響を受けにくいのでは?」

という話を見かけることもあります。

なかなか興味深い話ですよね。

ただし、ここは慎重に。

セレンが多い=水銀の影響を受けない

という単純な話ではありません。

セレンと水銀の関係については研究が続いている分野でもあります。

面白いですね。

気になる水銀については……

今回のテーマは、あくまでセレンです。

水銀についても、もちろん測定しています。

そして、こちらもなかなか興味深い結果になりました。

ただ、水銀について書き始めると長くなってしまいますので……

水銀については、また別の記事で。

マグロのセレンと水銀。

この2つを一緒に見てみると、魚のミネラルについて、また違った景色が見えてきます。

「食べる」だけではなく「測ってみる」

今回、実際に刺身を測ってみて改めて感じたのは、同じ「魚」でも、含まれているミネラルは結構違うんだな、ということです。

普段何気なく食べている刺身。

「おいしい」で終わるのももちろんいい。

でも、

「この魚には、どんなミネラルが入っているんだろう?」

と少し興味を持ってみる。

それだけでも、いつもの食事がちょっと面白くなるかもしれません。

私たちはミネラルを分析する会社ですから、これからも気になった食べ物を、

実際に測ってみたいと思います。

次は何を測りましょうか。

刺身のミネラル、第3弾もお楽しみに。

刺身のミネラルを分析してみた シリーズ

第1回 ブリの血合いは鉄がすごかった

第2弾。マグロのセレンに注目してみました

第3弾!サーモンの水銀はやっぱり低かった

やりたいを、いつまでも。

ミネラル検査をきっかけに。

ら・べるびぃ予防医学研究所

刺身のミネラルを測ってみた|第1回 ブリの血合いは鉄がすごかった

ミネラル分析を仕事にしていると、普段食べているものにどんなミネラルが含まれているのか、どうしても気になります。

「魚には、どんなミネラルがどのくらい含まれているんだろう?」

そんな素朴な疑問から、今回は刺身を実際に購入して、ミネラル分析をしてみることにしました。

会社の近くのマルエツで刺身を購入

購入したのは、会社の近くのマルエツ様。

「刺身の盛り合わせがあるかな」と思っていたのですが、今回は見当たらなかったので、単品で購入することにしました。

今回購入したのは、

  • サーモン
  • ブリ
  • キハダマグロ
  • ビンナガマグロ

です。

せっかくなので、ブリについては少し工夫しました。

ブリの刺身を見ると、赤い部分と、それ以外の白っぽい部分がはっきり分かれています。

この赤い部分、いわゆる血合いです。

そこで、

「血合いと、それ以外ではミネラルの量はどのくらい違うんだろう?」

と思い、ブリについては血合いの部分と、血合いではない白い部分を分けて分析することにしました。

※ブリは分類上、赤身魚です。今回の記事では便宜上、血合いではない部分を「白い部分」と表現しています。

そして、購入した刺身はもちろん……

おいしくいただきました。

食べるだけでは終わらないのが、ミネラル分析屋です。

いざ、ICP-MSで分析

ICP-MSは、非常に微量な元素まで測定できる分析装置です。

髪の毛を中心に普段からさまざまな試料を分析していますが、今回は「刺身」。

身近な食品を自分たちで測るというのは、なかなかワクワクします。

まずは前処理で酸の海にゆっくりと沈めて。。。

時間をかけて溶けていただきました。

そしてICP-MSでの分析(こちらはイメージ画像です)

ブリの血合いと白い部分で、鉄が20倍違った

そして、結果を見てみると……

かなりはっきりした違いが出ました。

鉄です。

今回分析したブリでは、血合いの部分と血合いではない白い部分で、鉄の量に大きな差がありました。

100gあたりに換算すると、

部位鉄
血合い4.1 mg/100g
白い部分0.21 mg/100g

なんと、

約20倍です。

血合いのほうが、圧倒的に鉄が多い結果になりました。

刺身を見ていると、赤い部分と白っぽい部分があることは分かります。

でも、実際に元素分析をしてみると、

「こんなに違うんだ」

と驚かされます。

あの赤い血合いの部分には、鉄がかなり集まっていたんですね。

なぜ血合いには鉄が多いのか?

そもそも、魚の血合いは何なのでしょうか。

血合いは、魚が泳ぎ続けるために重要な筋肉です。

魚の中でも特に、長時間泳ぎ続けるような魚では、酸素を利用するための仕組みが発達しています。

その中で重要なのが、ミオグロビンです。

ミオグロビンは筋肉中に存在する、鉄を含むタンパク質。

筋肉に酸素を供給・保持する役割を担っています。

血合いが赤黒く見えるのも、このような色素タンパク質が多く含まれていることが関係しています。

今回の鉄の分析結果を見ると、

「なるほど、だから血合いは赤いんだな」

と、目で見ていたものと元素分析の結果がつながってきます。

食品を元素という視点から見てみると、普段何気なく食べているものにも、いろいろな発見があります。

食品成分表では、ブリの鉄は1.3mg/100g

ちなみに、文部科学省の食品成分データベースでは、ブリ(生)の鉄は100gあたり1.3mgとされています。

今回の分析では、

  • 血合い:4.1mg
  • 白い部分:0.21mg

でした。

この差を見ると、

「食品成分表の1.3mgは、血合いの多い部分と少ない部分を含めた代表的な値なのかな?」

とも考えられます。

仮に血合いの割合が2割を仮定すると100g中1mgとなり、だいぶ食品成分表と近くなります。

ただし、食品成分表の値と今回の実測値は、必ずしも同じ個体・同じ部位・同じ試料条件ではありません。

そのため、今回の結果だけから「食品成分表はこういう内訳で作られている」と断定することはできません。

食品成分表は、私たちが食品の栄養成分を知るうえで非常に重要な基礎データです。

一方で、今回のように実際に購入した食品を自分たちで測ってみると、代表値だけでは見えてこない部分にも気づくことがあります。

刺身から見えてくるミネラル

今回の分析は、まだ始まったばかりです。

サーモン、ブリ、キハダマグロ、ビンナガマグロ。

それぞれの魚について、さまざまな元素を測定しています。

今回のブリの血合いと白い部分の鉄のように、

「同じ魚なのに、こんなに違うの?」

と思うようなデータもありました。

次回以降、ほかの魚についても少しずつご紹介していきたいと思います。

魚を食べるとき、いつもなら「赤身かな」「脂がのってるかな」と見ますが、

これからは少しだけ、

「この部分には、どんなミネラルが入っているんだろう?」

という目線で刺身を見てみるのも面白いかもしれません。


刺身のミネラルを分析してみた シリーズ

第1回 ブリの血合いは鉄がすごかった

第2弾。マグロのセレンに注目してみました

第3弾!サーモンの水銀はやっぱり低かった

やりたいを、いつまでも。

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古い和本に残された「毛髪」が、江戸の食生活を語る――毛髪ミネラル検査から見えてくる、身体と暮らしの記録

「髪の毛から、過去の身体の状態がわかる」

毛髪は、血液のように「その瞬間」の状態を見る検体とは異なり、伸ばしていく過程でミネラルなどの情報を取り込みながら、一定期間の傾向を残していく特徴があります。弊社の毛髪ミネラル検査でも、毛髪に含まれるミネラルや有害金属を測定し、数か月単位の栄養状態や曝露の傾向を把握することに役立てています。

そんな「毛髪に残された過去の情報」が、なんと江戸時代から明治時代の人々の暮らしを知る手がかりにもなっていた――。

2026年8月、龍谷大学などの研究グループが、古い和本の表紙に漉き込まれていた毛髪を分析し、当時の都市庶民の食生活や生活環境を復元した研究を発表しました。国際学術誌『Scientific Reports』に掲載された、非常に興味深い論文です。

「古い本」が、なぜ毛髪を保存していたのか?

今回注目されたのは、江戸時代から明治時代にかけて作られた「和本」です。

当時の和本の表紙には、古紙などを原料とした再生厚紙が使われていました。そして、その紙を作る工程で、人の毛髪が偶然混ざり込んでいたのです。

研究グループは、龍谷大学大宮図書館の蔵書を中心に約7万冊の古い和本を調査。そのうち約400部から毛髪試料を収集し、元素分析や安定同位体分析を行いました。

さらに和本には、出版地や年代を示す「刊記」が残っているものがあります。

  • 「いつ・どこで作られた本なのか」が特定できる
  • その本に残された毛髪を調べることで「その時代、その地域で暮らしていた人々の食や環境」を推定できる

まさに、毛髪を内包した「暮らしのタイムカプセル」といえます。

江戸の庶民は「質素な食事」? ミネラルから見えた意外な事実

研究から見えてきたのは、江戸から明治にかけての都市庶民の食生活です。

同位体分析からは、食生活が米などのC3植物と海産魚を中心としており、時代が進むにつれて米への依存や海産魚の利用が増えていったことが示されました。

「米と魚が中心の質素な食生活だったのでは?」と思われがちですが、毛髪中の元素を調べてみると意外な結果が出ました。

歴史時代の毛髪からは、現代の都市住民と比較して、カルシウム(Ca)、鉄(Fe)、銅(Cu)、カリウム(K)、マンガン(Mn)など、複数の元素濃度が高い傾向が確認されたのです。

「食材の種類が多い=必ずしもミネラルが豊富」とは限らない。この事実は、現代の私たちにとっても深い示唆を与えてくれます。精白度の低い米や海産物、当時の調理法や加工・保存方法などが、ミネラルの供給や利用可能性に関係していたと考えられます。

「食べたもの」だけでなく「暮らしの痕跡」まで読み解く

今回の研究が特に面白いのは、毛髪から読み取れるのが単純な「栄養状態」にとどまらない点です。

例えば、歴史時代の毛髪では塩素(Cl)や鉛(Pb)も高く検出されました。

  • 塩素:冷蔵庫がなかった時代、塩蔵による食品保存が一般的だった背景を反映
  • 鉛:当時使われていた「白粉(おしろい)」など、日常生活での曝露が要因として推察

毛髪を残された元素から分析することで、「何を食べたか」だけでなく、食品の保存法や調理器具、生活用品に至るまで、当時の「暮らしそのもの」に迫ることができるのです。

論文では、このように本の中に保存された生体情報を分析する学問的アプローチを「libraromics(ライブラロミクス)」と紹介しています。本そのものが生物学的なアーカイブになり得るという、実に刺激的な概念です。

過去と現代をつなぐ「毛髪の記録性」

毛髪は1か月に約1cmという安定したペースで伸び、その過程で成分を取り込んでいきます。そのため、血液検査とは異なり、一定期間にわたる傾向(履歴)を見やすいという特徴があります。

もちろん、何百年も前の毛髪から歴史を紐解く学術研究と、現在の健康管理を目的とした毛髪ミネラル検査は、アプローチも目的も異なります。

しかし共通しているのは、「毛髪には、過去の暮らしに関する情報が静かに記録されている」という事実です。

毛髪は、身体内部の出来事を完璧に写し出す魔法の媒体ではありません。元素濃度は食事量だけに比例するわけではなく、代謝や外部曝露など多様な要因が絡み合います。だからこそ、毛髪のデータだけでなく、食文化や歴史的背景と組み合わせて解釈することが重要になります。

これは、現代の毛髪ミネラル検査にもまったく同じことが言えます。数値だけに囚われるのではなく、日々の食事内容や生活環境と照らし合わせながら活用することにこそ、本当の価値があります。

「今の自分」を知るために、過去の積み重ねを振りかえる

今回の研究は、「昔の食事の方が健康的だった」と単純に結論づけるものではありません(鉛の曝露や塩分の高さなど、注意すべき点もあります)。

重要なのは、「私たちの毎日の積み重ねが、毛髪という身近な組織にひとつの『履歴』として残っていく」という視点です。

食べたもの、生活環境、日々の習慣。それらが自分の身体にどう影響しているのか。

毛髪ミネラル検査は病気を診断するものではありませんが、数か月単位の体の傾向を映し出し、自身の食生活や生活環境を客観的に見直すきっかけになります。

何百年前の和本に閉じ込められた一本の毛髪が、当時の人々の生き生きとした暮らしを教えてくれたように。あなたの髪もまた、今日までのあなたの生活を静かに記録しています。

「過去の自分」を振り返り、これからの健康をつくるための小さなタイムカプセルとして、一度ご自身の毛髪ミネラルバランスに目を向けてみてはいかがでしょうか。

参考文献

毛髪ミネラル検査にご興味がある方はこちら↓↓

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塗るマグネシウムクリーム 3本使い切ってみた

「ミネラル、足りていますか?」

そう聞かれて、すぐに答えられる人はどれくらいいるでしょうか。

そもそも私は、「ミネラル不足」という言葉を見るたびに、少し不思議な気持ちになります。

ミネラルって、全部ひとまとめで考えていいの?

という疑問です。

ミネラルにはいろいろな種類があります。

普段の食事で比較的摂れているものもあれば、摂りすぎに注意したいものもある。そして、食生活によっては不足しやすいものもあります。

だから「ミネラルが足りない」ではなく、

「何のミネラルが足りないの?」

と考えることが大切だと思っています。

私が注目しているのがマグネシウム

マグネシウムは、体内で300種類以上の酵素反応に関わる重要なミネラルです。

エネルギー産生にも関わりますし、筋肉や神経の正常な働きにも関係しています。

特に私の場合、ランニングをします。走る。汗をかく。そして、脚が疲れる。

そんな生活をしていると、マグネシウムなどのミネラルが気になってきます。

そこで試してみたのが、「塗るマグネシウムクリーム」です。

本当に「塗る」だけ?

今回使ったのは、塩化マグネシウムを20%配合したクリーム。

最初に使ったときの感想は、

おお……クリームだ、でした。当たり前です(笑)。

普段、あまりクリームを使わないので、塗った直後の

「ぬるぬるする!」

という感覚が気になりましたが、使っているうちに慣れてきました。

そして、私が使ったのは1本ではありません。

3本です。

せっかくなので、しばらく使い続けてみることにしました。

ランニング後に使ってみた

私の場合、使うタイミングは主にランニング後。

走った後って、脚に独特の疲労感があります。

そして、何度も走っていると、

「今日はちょっと脚が張っているな」

とか、

「このままいくと攣りそうだな」

という感覚が分かるようになってきます。

そんなときに、マグネシウムクリームを塗ってみました。

すると……

なんとなく、落ち着く。

これが正直な感想でした。

疲労感がスーッと抜けていくような感じ。

「お、これはいいかも」

と思いました。

ただし、ここは大事なので言っておきます。

これは、あくまで私自身の「感覚」です。

マグネシウムクリームを塗ったら筋肉の疲労が取れる、と科学的に確認したわけではありません。

「効いた!」と断言するつもりもありません。

だからこそ、3本使い切ってみました。

そして、血液も調べてみた

せっかく、ら・べるびぃ予防医学研究所です。

「塗ったら本当にマグネシウムが増えるの?」

これは一度、調べてみたくなります。

そこで、塗る前と、使った後で、血液中のマグネシウムを分析してみました。

結果は……あまり変わりませんでした。

「え? じゃあダメじゃん」

と思った方。

ちょっと待ってください。

血液中のマグネシウムは、そんな簡単には動かない

医学博士にこの結果を確認してみました。

すると、

「血液中のマグネシウムは恒常性が保たれているから、そう簡単に変化しない。むしろ、何かを塗っただけで血液中の濃度が大きく変わったら、それはそれで怖い」

という話でした。

なるほど。考えてみれば、身体は血液中のミネラル濃度を一定に保とうとします。

実際、体内にあるマグネシウムのうち、血清中に存在するのは1%未満。血清Mgはかなり厳密に調節されています。

つまり、

「血液中のマグネシウムが変わらなかった=マグネシウムクリームに意味がない」

とは、単純には言えません。

そもそも血液中のマグネシウムだけでは、体内のマグネシウム状態をすべて評価することもできません。

じゃあ、3本使ってどうだった?

ここからは、完全に私個人の感想です。

私の場合は、

「攣りそうだな」

と感じたときに塗る。

これが一番しっくりきました。

そして、塗った後に、

「なんとなく落ち着く」

という感覚がある。

だから、3本使い切った今の私なら、

「ランニングやスポーツをする人が、セルフケアのひとつとして使ってみるのはアリ」

だと思っています。

ただし、ここは繰り返します。

今回は、あくまで私自身の体感です。

マグネシウムが筋肉の働きに関係することはよく知られていますが、マグネシウム補給による「こむら返り予防」そのものについては、研究結果が一貫しているわけではありません。特に運動に伴う筋痙攣については、十分な臨床試験がありません。

だから私は、

「これを塗れば攣らない!」

とは言いません。

でも、

「攣りそうになる前の、自分なりのケアとして使ってみる」

というのは、面白い使い方だと思います。

今回、3本使い切ってみて改めて思ったのは、個人的には、かなり気に入りました。

ランニングやスポーツをされる方。

脚のケアを大切にしている方。

マグネシウムを毎日の生活に取り入れてみたい方。

気になる方は、ぜひ一度チェックしてみてください。

塗るマグネシウムクリーム NuRuMg – ヌルマグ-

※本記事は、筆者個人の使用感・体験を紹介するものであり、製品の効果を保証するものではありません。

ゲリラ豪雨を採取して、本気でミネラル分析してみました。

先日、突然のゲリラ豪雨。

「あっ、雨だ。」

普通の人なら洗濯物を取り込むところですが、

「サンプル採らなきゃ!!」

慌てて容器を持って外へ飛び出しました。

その時の様子はこちらです。

実はリベンジだったんです

「なんでそんなことを?」

実は以前、台風(チャンミー)が来たときにも雨を採取しようとしたことがありました。

ところが…。

ビーカーを置いて雨水をためようと思っていたら、ビーカーが無くなっておりました。。。

今回は、そのリベンジ、何がなんでも集めてやらねばと。

……目的はもちろん雨水のミネラル分析です。

まずはpHを測定

採取した雨水のpHを測定すると、約5でした。

現在、日本の酸性雨調査では全国平均がおおよそこのくらいと報告されており、今回の結果もその範囲に収まりました。

一方で、約5年前に採取した台風の雨水はpH6前後でした。

なぜ違うのでしょうか。

考えてみると、今回のゲリラ豪雨は降り始めに採取しています。

一方、5年前は雨が降り始めてからしばらく経ってから採取しました。

雨は降り始めと降り続いた後では大気中の物質の取り込み方が変わることが知られているため、その影響があったのかもしれません。

もちろん、天候や場所などさまざまな要因があるので、今回だけで結論は出せませんが、とても興味深い結果でした。

いよいよミネラル分析

続いて、ICP-MSでミネラルを分析しました。

今回はイメージしやすいように、一般的な水道水と比較してみます。

硬度

水道水(全国平均):約46 mg/L

ゲリラ豪雨:0.4 mg/L

なんと、

100分の1以下。

まさに超・超軟水でした。

「軟水」というレベルではなく、ミネラルがほとんど含まれていない水と言ってもよいくらいです。

ほとんどの元素が非常に少ない

カルシウムやマグネシウムをはじめ、多くの元素は水道水よりかなり低い値でした。

一方で、比較的水道水との差が小さかったのは鉄とマンガンです。

実は水道水では、鉄やマンガンは浄水処理によって取り除かれています。

そのため、この結果を見たときは、

「なるほど、そういうことか。」

と納得しました。

雨はとてもきれいな水…とは限らない

今回の分析では、雨水は非常にミネラルが少ないことが分かりました。

ただし、「ミネラルが少ない=安全」「雨は純水だから飲める」という意味ではありません。

雨は降る過程で大気中のさまざまな物質を取り込みますし、採取方法や環境によっても成分は変化します。

だからこそ、実際に分析して確かめることが大切です。

これからも面白そうなサンプルを見つけたら、どんどん分析していきたいと思います。

水の検査にご興味があればぜひおうち水ミネラル検査。

【お酒の飲みすぎに注意】アルコールが「体内の鉄バランス」を乱す?意外と知られていない鉄過剰のリスク

「鉄分=不足すると貧血になる栄養素」というイメージをお持ちの方は多いのではないでしょうか。

確かに鉄は健康維持に欠かせない必須ミネラルですが、実は不足しても過剰になっても体に悪影響を及ぼすことが知られています。

近年では、習慣的な飲酒が体内の鉄を調節する仕組みを乱し、体内に鉄が溜まりやすくなる可能性が報告されています。

今回は、国立がん研究センターなどによる大規模疫学研究(JPHC研究)をもとに、鉄の役割や過剰蓄積のリスク、そしてアルコールとの意外な関係について解説します。

1.鉄は体の中でどんな働きをしている?

鉄は、私たちの生命維持に欠かせない必須ミネラルです。主な働きには次のようなものがあります。

  • 酸素を全身へ運ぶ: 赤血球に含まれるヘモグロビンの材料となり、肺で取り込んだ酸素を全身へ届けます。
  • エネルギーを作る: 細胞内でエネルギー(ATP)を産生する酵素の働きをサポートします。
  • 体や脳の機能を支える: コラーゲンの合成や神経伝達物質の産生に関わり、皮膚、骨、脳の健康維持を支えています。

このように、鉄は日々の活動を裏で支える重要な存在です。

2.実は「多すぎても危険」な鉄

鉄不足による貧血は有名ですが、実は鉄が体内に過剰に蓄積することも健康上のリスクとなります。

人間の体には、増えすぎた鉄を積極的に排出する仕組みがほとんどありません。そのため、必要以上に吸収された鉄は、主に肝臓などに溜まりやすい性質があります。

鉄過剰が引き起こす「酸化ストレス」

体内の余分な鉄(遊離鉄)は、体内の過酸化水素などと反応し、「ヒドロキシラジカル」と呼ばれる非常に攻撃力の強い活性酸素を生み出します(フェントン反応)。

この強力な酸化ストレスによって、以下のようなリスクが生じることが指摘されています。

  • DNAや細胞の損傷: 長期的にはがんのリスクとの関連が指摘されています。
  • 肝臓への負担: 鉄が蓄積することで、脂肪肝や肝硬変などへの影響が懸念されます。
  • 糖尿病リスクの上昇: 膵臓の細胞がダメージを受けることで、インスリンの分泌が低下する可能性があります。

つまり、鉄は生命維持に不可欠である一方、多すぎると細胞を傷つける「諸刃の剣」にもなり得るのです。

3.鉄バランスを守るブレーキ役「ヘプシジン」

では、私たちの体はどのようにして鉄の量を調整しているのでしょうか?

そのカギを握るのが、肝臓で作られる「ヘプシジン」というホルモンです。

  • 鉄が十分にあるとき: ヘプシジンが増加し、腸からの鉄吸収を抑える
  • 鉄が不足しているとき: ヘプシジンが減少し、腸からの鉄吸収を促す

このようにヘプシジンは、体内の鉄が増えすぎないようにコントロールする「ブレーキ役」を果たしています。

4.アルコールは鉄の調節機能を狂わせる?

国立がん研究センターなどの研究グループは、日本人を対象とした大規模研究(JPHC研究)において、飲酒量と鉄代謝マーカー(血清鉄、フェリチン、ヘプシジン)の関係を解析しました。

その結果、お酒と鉄代謝に関して興味深い傾向が明らかになりました。

① 飲酒量が多い人ほど「フェリチン」が高い傾向

男性および閉経後の女性において、アルコール摂取量が多い人ほど血清鉄やフェリチン値が高い傾向が認められました。 ※フェリチンは体内の貯蔵鉄量を反映する指標ですが、炎症や肝障害でも上昇するため、この数値だけで直ちに鉄過剰と断定はできません。

② ヘプシジンの「ブレーキ機能」が弱まる可能性

本来であれば、貯蔵鉄(フェリチン)が増えるとヘプシジンも増え、鉄の吸収を抑えようとします。 しかし習慣的に飲酒している人では、フェリチンが高いにもかかわらずヘプシジンが十分に増えず、鉄の吸収を抑えるブレーキが利きにくくなっている可能性が示されました。

③ 男性・閉経後女性で明確な傾向

この関連は男性と閉経後女性で顕著にみられました。閉経前の女性で同様の傾向が見られなかった背景には、月経による日常的な鉄の喪失や、性別による代謝の違いが影響していると考えられています。

【研究から言えること】 今回の研究は因果関係を直接証明するものではありませんが、「習慣的な多量飲酒がヘプシジンの調整機能を低下させ、体内の鉄バランスを乱す一因になり得る」という重要な示唆を与えています。

5.今日からできる3つの鉄・アルコール対策

「お酒の影響」といえば肝機能指標(γ-GTPなど)に目が向きがちですが、これからは「鉄代謝への影響」にも配慮することが大切です。

  1. 適正飲酒と休肝日を意識する 毎日の大量飲酒は鉄代謝のブレーキ機能を鈍らせる可能性があります。週に数日は休肝日を設け、適量を楽しみましょう。
  2. 自己判断での「高用量鉄サプリ」に注意する 特に男性や閉経後の女性は、明確な鉄欠乏がないにもかかわらず高用量の鉄サプリメントを飲み続けるのは避けましょう。判断に迷う場合は医師へ相談することをおすすめします。
  3. 定期的な健診で体をチェックする 健診や精密検査の際、必要に応じてフェリチンなどの鉄代謝マーカーを調べることも可能です。気になる症状や数値がある場合は、医療機関で受診・相談しましょう。

「鉄分=摂れば摂るほど良い」というわけではありません。

アルコールは肝臓だけでなく、体内の鉄バランスの調整役にも影響を与えている可能性があります。これまでの「貧血対策」という視点に加えて、これからは「鉄の過剰蓄積を防ぐ」という視点も持ち合わせながら、適度なお酒とバランスの良い食事を心がけていきましょう。

参考文献

タイの食塩誤認事故で注目された「亜硝酸塩」とは?知っておきたい光と影

今回は、ニュースで報じられた衝撃的な事故をきっかけに、私たちの身近にある化学物質「亜硝酸塩」について、その役割と危険性を分かりやすくご紹介します。

タイの飲食店で起きた「食塩と亜硝酸塩」の誤認事故

2026年6月、タイ・ウドンタニ州の飲食店で、店主がゴミの山から見つけた正体不明の薄黄色の粉末を食塩と思い込み、麺料理の調味料として使用する事故が発生しました。

料理を食べた客や店主の親族らは、食後まもなく激しい吐き気、めまい、嘔吐、呼吸困難などの症状を訴え、次々と病院へ搬送されました。一時は4人が重篤な状態となり、大きなニュースとなりました。

その後の調査で、この粉末は「亜硝酸塩」であることが判明しました。当局の分析では、料理を数杯食べるだけで致死量に達する可能性があるほど高濃度だったと報告されています。

この事故は、亜硝酸塩そのものというより、「正体不明の薬品を調味料として使用した」ことが原因で起きた悲劇でした。

一方で、亜硝酸塩は私たちにとって決して珍しい物質ではありません。ハムやソーセージなどの加工肉では、発色剤や保存料として国の厳しい基準のもと、ごく微量が使用されています。

では、この亜硝酸塩(そして体内で変化する硝酸塩)は、私たちの健康にどのような影響を与えるのでしょうか。

亜硝酸塩の光──健康に役立つ働き

「毒」というイメージを持たれがちな亜硝酸塩ですが、実は野菜にも深く関係しています。

ほうれん草、小松菜、チンゲンサイ、ビーツなどには硝酸塩が多く含まれており、これが口の中の細菌や体内の酵素によって亜硝酸塩へ、さらに一酸化窒素(NO)へと変化します。

この一酸化窒素には、次のような働きがあります。

1.血圧を下げる

一酸化窒素は血管を拡張し、血流を改善します。そのため、高血圧の予防や心血管の健康維持に役立つと考えられています。

2.運動能力を高める

筋肉が酸素を効率よく利用できるようになるため、持久力の向上が期待されています。このため、硝酸塩を多く含むビーツジュースは、多くのアスリートにも利用されています。

3.食中毒菌を抑える

加工肉に亜硝酸塩が使われる最大の理由は、強力な食中毒菌であるボツリヌス菌の増殖を抑えるためです。

ボツリヌス菌は極めて強い毒素を産生する細菌であり、その増殖を防ぐことは食品の安全性を保つうえで非常に重要です。

亜硝酸塩の影──過剰摂取による健康リスク

一方で、今回のタイの事故のように大量の亜硝酸塩を一度に摂取すると、重大な健康被害を引き起こします。

1. メトヘモグロビン血症

今回の事故で患者が呼吸困難となった主な原因が「メトヘモグロビン血症」です。

通常、赤血球中のヘモグロビンは酸素を全身へ運搬しています。しかし亜硝酸塩を大量に摂取すると、ヘモグロビンが酸素を運べない「メトヘモグロビン」へ変化してしまいます。

その結果、体内が酸欠状態となり、

  • 唇や皮膚が青紫色になる(チアノーゼ)
  • 息苦しさ
  • めまい
  • 意識障害

などが現れ、重症では命に関わることもあります。

特に乳幼児は影響を受けやすいことが知られています。

2.ニトロソアミンの生成

亜硝酸塩は、肉や魚に含まれるアミン類と反応すると、「ニトロソアミン」という物質が生成されることがあります。

ニトロソアミンの一部には発がん性が確認されており、特に加工肉を高温で長時間加熱し、焦がした場合などに生成しやすいとされています。

ただし、日本では加工肉に使用できる亜硝酸塩の量は食品衛生法に基づいて厳しく規制されており、通常の食生活で過度に心配する必要はありません。

まとめ

今回のタイの事故は、「亜硝酸塩が危険だから起きた事故」ではなく、「正体不明の薬品を食塩と誤認し、大量に使用した」ことが原因でした。

一方で、食品添加物として使用される亜硝酸塩は、厳しい安全基準のもとで管理されており、適切な量であれば食品の安全性を高める重要な役割を果たしています。

大切なのは、「危険だから避ける」「安全だから気にしない」という極端な考え方ではなく、正しい知識を持って付き合うことです。

より安全に付き合うためのポイント

・加工肉は焦がしすぎず、中火程度で調理する。
・ビタミンCを多く含む野菜や果物を一緒に食べる(ニトロソアミンの生成を抑える働きが期待されています)。
・そして何より、出所が分からない粉末や薬品を食品として使用しないこと。

化学物質は「量」と「使い方」によって、私たちの健康を守る存在にも、命を脅かす存在にもなります。今回の事故を教訓に、食品添加物についても正しい知識を身につけ、必要以上に恐れず、正しく付き合っていきたいものです。

参考情報

「塩と勘違い」 タイの飲食店が正体不明の粉を料理に使用、多数の客が救急搬送される

ニトロソアミン類とは:農林水産省

銅化合物でアルツハイマー病モデルマウスの記憶機能が約44%改善―脳の老廃物を排出する仕組みを回復させる新たな可能性

私たちの脳には、日々生じる老廃物を体外へ排出する仕組みが備わっています。近年、この「脳のお掃除システム」の働きが低下すると、アルツハイマー病の発症や進行につながる可能性があるとして注目されています。

そんな中、オーストラリアのモナシュ大学などの研究チームが、学術誌『ACS Chemical Neuroscience』に興味深い研究成果を発表しました。

研究では、銅を含む化合物「Cu(ATSM)」を投与したアルツハイマー病モデルマウスで、脳の老廃物排出機能が改善し、記憶機能も向上したことが報告されています。

今回は、この研究の内容を分かりやすくご紹介します。

アルツハイマー病と脳の「お掃除システム」

アルツハイマー病では、「アミロイドβ」というタンパク質が脳内に蓄積することが大きな特徴の一つです。

健康な脳では、血液脳関門に存在する「P糖タンパク質(P-gp)」がアミロイドβを脳の外へ排出する働きを担っています。

ところがアルツハイマー病では、このP-gpの量や働きが低下し、アミロイドβが脳内にたまりやすくなると考えられています。

注目された銅化合物「Cu(ATSM)」

今回研究チームが注目したのは、「Cu(ATSM)」という銅を運ぶ化合物です。

Cu(ATSM)は脳へ効率よく銅を届けることができ、すでにパーキンソン病や筋萎縮性側索硬化症(ALS)などを対象とした研究も進められています。

研究では、アルツハイマー病モデルマウスに56日間Cu(ATSM)を投与しました。

その結果、次のような変化が見られました。

① P糖タンパク質(P-gp)が24.1%増加

血液脳関門にあるP-gp関連タンパク質が24.1%増加しました。

これは、低下していた脳の老廃物排出機能が回復する可能性を示す結果と考えられています。

② アミロイドβが約42%減少

大脳皮質に蓄積していたアミロイドβは42.1%減少しました。

研究チームは、P-gpの働きが改善したことでアミロイドβの排出が促進された可能性があると考えています。

③ 記憶機能が約44%改善

空間学習能力や長期記憶を評価する試験では、記憶機能の指標が43.8%改善しました。

もちろん、この結果はマウスで確認されたものであり、人で同じ効果が得られるかどうかは今後の研究を待つ必要があります。

なぜ銅が重要なのか

銅は私たちの体に欠かせない必須ミネラルの一つです。

脳の健康にも深く関わっており、次のような働きがあります。

・脳のエネルギー産生を支える
脳は多くのエネルギーを消費します。銅は細胞内のミトコンドリアが効率よく働くために必要です。

・活性酸素から脳を守る
銅は抗酸化酵素SODの材料となり、細胞を酸化ストレスから守る働きを助けます。

・神経伝達物質の合成を支える
記憶や集中力、感情に関わるドーパミンやノルアドレナリンの産生にも銅が必要です。

・鉄の利用を助ける
銅は鉄の運搬や利用をサポートし、正常な造血にも関わっています。

これまでの研究では、アルツハイマー病患者の脳で銅代謝の異常が見つかっており、一部の神経細胞では機能的な銅不足が起きている可能性も指摘されています。

研究チームは、Cu(ATSM)によって脳へ銅が供給されることで、血液脳関門の機能改善や酸化ストレスの軽減が起こり、その結果としてP-gpの回復につながった可能性があると考えています。

また、脳の免疫細胞であるミクログリアの働きを整え、アミロイドβの除去を助けている可能性も検討されています。

まとめ

現在のアルツハイマー病治療では、アミロイドβを直接標的とする抗体医薬が実用化されています。

一方、今回の研究は「脳が本来持っている老廃物排出機能を取り戻す」という新しい視点からアプローチしている点が特徴です。

今回の成果はマウスを用いた研究段階のものであり、人への有効性はまだ確認されていません。しかし、Cu(ATSM)はすでに他の神経疾患で臨床研究が進められていることから、今後の発展が期待されています。

アルツハイマー病治療の新たな選択肢につながる可能性がある研究として、今後の続報が注目されますね。

【参考文献】

 Cu(ATSM) Restores Blood–Brain Barrier Abundance of P-Glycoprotein and Improves Cognitive Function in the APP/PS1 Mouse Model of Alzheimer’s Disease; ACS Chemical Neuroscience (2026年発表)