和歌山県新宮市で何が?基準値7倍のヒ素含む残土、「若者広場」盛り土計画の深層

先日お客様より表題の件が問題になっているとお電話があり、お調べしてみました。

和歌山県新宮市で進むトンネル工事を巡り、地元住民の間で大きな懸念が広がっています。問題となっているのは、基準値を大幅に超えるヒ素(約7倍)とフッ素(約4倍)が検出された掘削残土の処理計画です。

特に、その残土の搬入候補地の一つとして、地域住民や学校が利用する市営の「若者広場」が浮上しており、「子どもの健康は守られるのか」という不安の声が上がっています。

1. 基準値7倍のヒ素を含む残土問題の経緯

問題の発端は、2022年9月に新宮市相賀~高田間で始まった国道168号「仮称2号トンネル」(全長2,658 m)の工事です。

掘削作業中、国の環境基準を大幅に上回るヒ素(約7倍)とフッ素(約4倍)が検出されました(これらはいずれも自然由来とみられています)。

現在、工事は2023年11月から休止されており、掘削作業もストップしたままです。和歌山県は、残土を遠方の処分場まで輸送する費用が高騰することを懸念し、現場近くで受け入れ先を模索しています。

2. 処分候補地に「若者広場」—地元で広がる健康被害の懸念

県が搬入先の一つとして計画しているのが、市民体育祭や学校行事などに利用されている市営の「若者広場」です。

県は、残土をこの広場に5〜6m盛り土し、残土をコンクリートで囲んだ上で覆土(土で覆うこと)を施す計画を説明しています。紀伊水害の経験を踏まえ、将来的に避難場所としても利用することを意図しているようです。

しかし、説明会では「健康被害への懸念」や「コンクリートが将来的に劣化した場合の影響」など、住民から多くの不安の声が寄せられています。県と市は、今後も丁寧な説明と地元との意見交換を重ねるとしていますが、不安の解消には至っていません。

3. なぜ危険か?ヒ素とフッ素の毒性と最新の科学的知見

残土に含まれるヒ素・フッ素が、なぜこれほど懸念されるのでしょうか。

ヒ素

ヒ素は、特に無機ヒ素(inorganic arsenic)が「確実な発がん性物質」として国際的にも認められています。飲料水・食品を通じて無機ヒ素に慢性的に曝露されると、皮膚・心血管・神経・免疫・内分泌・生殖機能など、多くの器官・系統に影響が報告されています。

Arsenic in Water and Food: Toxicity and Human Exposure, Foods 2025, 14(13),


さらに、2025年1月発表の論文では、地下水内ヒ素汚染が“世界的に深刻な健康リスクであり、曝露量・形態・長期影響を踏まえた対応の必要性を指摘しています。

A review on arsenic contamination in drinking water: sources, health impacts, and remediation approaches – RSC Advances (RSC Publishing) DOI:10.1039/D4RA08867K

フッ素(Fluoride

フッ素・フッ化物(F‑)も、通常少量ではむしろ歯のエナメル質強化などに有用ですが、許容を超える曝露量では「歯・骨のフッ素症(dental/skeletal fluorosis)」「神経発達影響」「代謝変化」「腸内細菌叢の変化」などが報告されています。

  • 2025年3月のレビューでは、慢性的なフッ素曝露が「脂質・アミノ酸・代謝経路(ミトコンドリア活性、脂肪酸代謝、タンパク質消化吸収など)を変化させる」という証拠も示されています。

Fluoride exposure and metabolic alterations: a scoping review of metabolomic studies;10 October 2025 Volume 21, article number 147, (2025)

  • 米国の国立毒性プログラム(National Toxicology Program/NTP)によると、「水中フッ素濃度が1.5 mg/L以上の場合、児童のIQ低下との関連を『中程度の確信』で認める」報告があります。ntp.niehs.nih.gov

最後に──「理解を得る」とは、対話を続けること

新宮市で起こっているこの問題は、全国各地で起こり得る「開発」と「環境・住民生活」のせめぎ合いを象徴しています。

解決の鍵は、単に技術的な「安全対策」を施すことだけではなく、「地域との継続的な対話」と「信頼の構築」にあります。住民が科学的根拠に基づいて十分に*納得して”受け入れられるよう、県と市には一方的な説明ではなく、対話を深める姿勢が強く求められています。

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