刺身のミネラルを測ってみた、第4弾。マグロの水銀、え、ブリより低いの?

というわけで、早いもので第4弾です。

いろいろと興味深い結果が出てきます。

今回も、ちょっと意外な結果になりました。

そこで今回注目したのは……

やっぱり、マグロの水銀です。

水銀ですよ、やっぱり。

どうせマグロ、ずば抜けて高いんでしょ?

そうなんでしょ?

だってマグロだもん。

というわけで、今回の結果はこちら!

今回測定した水銀濃度

単位はppbです。

魚水銀濃度 ppb
キハダマグロ36
ビンナガマグロ602
ブリ(血合いを除く)109

え?

あれ?

キハダ、低くない?

36 ppbですよ。

前回のサーモンよりは高いけれども……

ブリより低い。。。

え、マグロなのにブリより低いの?

いや、もちろんマグロにもいろいろな種類がありますからね。

ひとくくりにはできません。

でも、これはちょっと意外。

キハダマグロ、水銀が低かった!

今回測定したキハダマグロの水銀濃度は36 ppb。

一方、ブリは109 ppb。

今回の結果では、キハダマグロはブリの約3分の1でした。

マグロといえば水銀が高いイメージがありますが、今回のキハダはかなり低い値でした。

ただし、これはあくまで今回購入した刺身を測定した結果です。

すべてのキハダマグロが低い、というわけではありません。

そこで、過去の調査結果も調べてみました。

厚生労働省の調査ではどうだった?

厚生労働省が公表している「魚介類に含まれる水銀の調査結果(まとめ)」という資料があります。

2004年度の地方自治体の調査結果などを含む、魚介類の水銀濃度をまとめた資料です。

まずはキハダマグロ。

調査結果は次のとおりです。

  • 検体数:87
  • 最小値:0.030 µg/g
  • 最大値:1.250 µg/g
  • 平均値:0.179 µg/g

えっ。

最大値、1.250 µg/g!?

今回のキハダマグロは0.036 µg/gです。

過去の調査の最小値に近い値だったんですね。

一方で、最大値は1.250 µg/g。

最小値の約42倍です。

キハダマグロ、ばらつきがすごい!!

もちろん、調査対象や個体が異なるため、今回の結果と単純に比較することはできません。

それでも、キハダマグロだから必ず水銀が低い、とは言えないことがわかります。

今回たまたま購入した刺身は低かった、という可能性もありそうです。

そして、ビンナガマグロ!

さて、もう一種類のマグロ。

ビンナガマグロはどうだったのでしょうか。

今回の結果は……

602 ppb!!

たっか!!

キハダマグロの36 ppbに対して、約17倍です。

同じマグロなのに、こんなに違うんですね。

では、ビンナガマグロも過去の調査結果を見てみましょう。

厚生労働省の資料では、次のようになっています。

  • 検体数:18
  • 最小値:0.12 µg/g
  • 最大値:0.34 µg/g
  • 平均値:0.237 µg/g

今回のビンナガマグロは0.602 µg/g。

過去の調査で報告された最大値0.34 µg/gを上回っています。

約1.8倍です。

え、そんなこともあるんですね。

ただし、今回測定したのは1試料だけです。

過去の調査とは検体数も異なるため、この結果だけでビンナガマグロ全体の水銀濃度が高いとは言えません。

あくまで、今回購入した試料ではこうした結果になった、ということです。

それにしても、興味深いですね。

キハダは低かった。

ビンナガは高かった。

マグロとひとくくりにして考えると、見えない違いがあるんですね。

※出典:厚生労働省「魚介類に含まれる水銀の調査結果(まとめ)」

ビンナガマグロを200g食べたら?

さて、ここで気になるのが水銀の摂取量です。

今回のビンナガマグロの測定値は602 ppb。

重量比で換算すると、0.602 µg/gです。

仮に200g食べたとすると……

0.602 µg/g × 200g = 120.4 µg

水銀を約120 µg摂取する計算になります。

では、これがどのくらいの量なのか。

メチル水銀の暫定的耐容週間摂取量(PTWI)は、体重1kgあたり週1.6 µgです。

体重60kgの人なら、

1.6 µg × 60kg = 96 µg/週

となります。

つまり、今回の水銀がすべてメチル水銀だったと仮定すると、200g食べた場合、PTWIを上回る計算になります。

ただし、ここは注意が必要です。

今回測定したのは総水銀であり、メチル水銀だけを測定したわけではありません。

そのため、実際にメチル水銀をどのくらい摂取することになるのかは、この結果だけではわかりません。

また、PTWIは長期的な摂取を評価するための指標です。1回超えたからといって、直ちに健康被害が起きるという意味ではありません。

あくまで、今回の数値を使った仮定の計算です。

まとめ:マグロの水銀、ひとくくりにはできない!

今回の測定結果をまとめると、

  • キハダマグロ:36 ppb
  • ビンナガマグロ:602 ppb
  • ブリ(血合いを除く):109 ppb

でした。

キハダマグロはブリより低く、ビンナガマグロは今回の試料ではかなり高い結果になりました。

さらに、厚生労働省の過去の調査を見ると、キハダマグロでも水銀濃度に大きなばらつきがあり、今回のビンナガマグロの値は、過去の調査で報告された最大値を上回っていました。

もちろん、今回の測定はそれぞれ1試料ずつです。

すべてのキハダマグロやビンナガマグロに当てはまるわけではありません。

だからこそ、実際に測ってみることには意味があると思います。

普段何気なく食べているお刺身。

おいしい、で終わるのももちろんいい。

でも、

「この魚には、どんなミネラルが含まれているんだろう?」

「水銀はどのくらいなんだろう?」

と、少し興味を持ってみる。

いつもの食事が、ちょっと違って見えてくるかもしれません。

刺身のミネラルを分析してみた シリーズ

第1回 ブリの血合いは鉄がすごかった

第2弾。マグロのセレンに注目してみました

第3弾!サーモンの水銀はやっぱり低かった

ら・べるびぃ予防医学研究所

刺身のミネラルを測ってみた、第3弾!サーモンの水銀はやっぱり低かった

刺身のミネラルを測ってみたシリーズ、第3弾です!

今回注目するのは、サーモンです。

おいしいですよね、サーモン。

お寿司でも人気ですし、スーパーでも手軽に買える、身近なお魚です。

そんなサーモンについて、以前からよく耳にしていたのが、

「サーモンは水銀が少ない」

という話。

マグロなどと比べると、水銀濃度がかなり低く、1/10から1/100程度だという話を聞いたことがありました。

本当のところはどうなのか。

ミネラル分析屋としては、やっぱり自分で測ってみたくなります。

というわけで、今回も実際に刺身を購入し、水銀を分析してみました。

サーモンを1とすると、びんながは157倍!

今回測定したサーモンと、これまでに測定したお魚の水銀濃度を比較してみました。

サーモンの水銀濃度を「1」とした場合、ほかのお魚はどのくらいになるのでしょうか。

結果はこちらです。

  • サーモン:1
  • キハダマグロ:9
  • ぶり:28
  • ぶりの血合い:51
  • びんながマグロ:157

なんと、今回測定したサーモンは、びんながマグロの約1/157という結果でした。

キハダマグロと比べても約1/9。ぶりと比べると約1/28です。

そして、もうひとつ意外だったのが、今回測定したぶりは、キハダマグロよりも水銀濃度が高かったことです。

マグロといえば、水銀が気になるお魚の代表格というイメージがありますよね。

もちろん、魚の種類だけで水銀濃度が決まるわけではありません。個体や大きさなどによっても違いがあります。

それでも、今回の測定では、キハダマグロよりぶりのほうが高いという結果になりました。

こうして実際に測ってみると、一般的なイメージだけではわからないことが見えてきますね。

では、どのくらい食べられるの?

水銀の話になると、気になるのはやっぱり「どのくらい食べても大丈夫なの?」ということではないでしょうか。

そこで、今回はPTWIという指標を使って考えてみます。

PTWIとは、Provisional Tolerable Weekly Intake の略で、日本語では「暫定的耐容週間摂取量」と呼ばれます。

簡単にいうと、体重に応じて、1週間あたりに摂取しても健康への悪影響がないと考えられる量の目安です。

メチル水銀について、国際的に用いられてきたPTWIは、体重1kgあたり週1.6µgです。

この数値をもとに、私の体重(65kg)と今回測定したサーモンの水銀濃度から計算してみました。

すると、今回のサーモンであれば、1週間に4kg食べても、PTWIを超えないという計算になりました。

4kgですよ、4kg。

毎日お寿司を食べるどころの話ではありません。

もちろん、毎週4kg食べることをおすすめしているわけではありません。あくまで、今回測定したサーモンの水銀濃度を使って計算した場合の話です。

また、PTWIは水銀だけを考えた指標です。食事全体の栄養バランスや、ほかの食品からの水銀摂取量なども考える必要があります。

水銀だけで考えるなら、サーモンはかなり少ない

今回の結果から感じたのは、少なくとも水銀という有害金属に注目するなら、サーモンはかなり水銀濃度の低い選択肢だということです。

お魚には、たんぱく質や脂質、さまざまなミネラルなど、食事にうれしい栄養素が含まれています。

一方で、水銀のように気になる成分もあります。

だからといって、お魚を避けるのではなく、魚の種類による違いを知って、食事の選択に役立てる。

それが大切なのではないかと思います。

今回のサーモンについては、水銀濃度が非常に低く、少なくとも今回の分析結果からは、水銀の摂取量を過度に心配する必要性は低いと感じました。

ただし、今回測定したのはあくまで特定の試料です。すべてのサーモンの水銀濃度を保証するものではありませんし、水銀以外の有害金属や栄養素まで含めて評価したわけでもありません。

「お魚だから水銀が多い」「サーモンだから絶対に安心」と決めつけず、実際のデータを見て考える。

これが、分析をしていて面白いところでもあります。

次回もお楽しみに

今回の結果は、私自身も予想以上でした。

サーモンは水銀が少ないと聞いてはいましたが、実際に測定し、ほかのお魚と並べてみると、その違いが数字ではっきり見えてきます。

刺身のミネラルを測ってみたシリーズ、もう少し続けていきたいと思います。

ミネラル分析屋の好奇心は、まだまだ尽きそうにありません。

お魚をよく食べる方へ

お魚はおいしいですし、食事に取り入れたい食品のひとつです。

だからこそ、どんな成分が含まれているのかを知っておくことも大切だと思います。

今回のように、お魚の種類によって水銀濃度に違いが見られることもあります。

普段から魚を頻繁に食べる方は、ご自身のからだにどんなミネラルや有害金属が蓄積しているのか、一度調べてみませんか?

ら・べるびぃ予防医学研究所の「からだミネラル検査」では、毛髪などを試料として、ミネラルや有害金属を分析しています。

日々の食生活を振り返るきっかけとして、ぜひご検討ください。

刺身のミネラルを分析してみた シリーズ

第1回 ブリの血合いは鉄がすごかった

第2弾。マグロのセレンに注目してみました

第3弾!サーモンの水銀はやっぱり低かった

やりたいを、いつまでも。

ミネラル検査をきっかけに。

ら・べるびぃ予防医学研究所

魚の水銀が気になる方へ

脳のエネルギー工場を守る「ケルセチン」の可能性

健康維持のために、魚を積極的に食べている方は多いのではないでしょうか。

特に青魚に豊富なDHAやEPAは、脳の健康や血管機能の維持に役立つ重要な脂肪酸です。

一方で、魚を食べる際に気になるのが「メチル水銀」の存在です。メチル水銀は自然界の食物連鎖を通じて蓄積されるため、マグロなどの大型魚では比較的多く含まれることがあります。

「魚は健康に良いけれど、水銀は気になる」

そんな方に興味深い研究が報告されました。2024年に発表された研究では、タマネギやリンゴなどに含まれるポリフェノールの一種「ケルセチン」が、メチル水銀による脳へのダメージを軽減する可能性が示されたのです。

メチル水銀はなぜ脳に影響するのか?

メチル水銀は体内に吸収されやすく、さらに血液脳関門と呼ばれる脳の防御システムを通過しやすいという特徴があります。

脳に到達したメチル水銀は活性酸素の産生を増やし、神経細胞に酸化ストレスを与えます。こうしたストレスが続くと、神経細胞の機能低下や細胞死につながる可能性があります。

そして、メチル水銀が特に影響を与える標的の一つが「ミトコンドリア」です。

脳の働きを支えるミトコンドリア

ミトコンドリアは細胞内でエネルギー(ATP)を作り出すことから、「細胞の発電所」と呼ばれています。

特に脳の神経細胞は大量のエネルギーを必要とするため、ミトコンドリアの働きに大きく依存しています。

そのため、メチル水銀によってミトコンドリアの機能が低下すると、脳のエネルギー産生にも影響が及ぶ可能性があります。

最新研究:ケルセチンがミトコンドリアを保護

2024年、中国医科大学などの研究グループは、メチル水銀に曝露したマウスを用いて、ケルセチンの保護作用を検討しました。

論文タイトル:

Quercetin prevents methylmercury-induced mitochondrial dysfunction in the cerebral cortex of mice

(ケルセチンはマウス大脳皮質におけるメチル水銀誘発性ミトコンドリア機能障害を抑制する)

研究の結果、ケルセチンには主に次のような作用が確認されました。

① 活性酸素の増加を抑える

メチル水銀によって増加した活性酸素を抑制し、ミトコンドリアの損傷や細胞死のシグナルを軽減しました。

ケルセチンの抗酸化作用が、神経細胞を守る一因と考えられています。

② ミトコンドリアの品質管理(リサイクル機能)をサポートする

ミトコンドリアは常に融合や分裂を繰り返しながら、機能を維持しています。

研究では、ケルセチンがSIRT1/PGC-1α経路を活性化し、ミトコンドリアの新生や品質管理に関わる仕組みをサポートすることが示されました。

つまりケルセチンは、単に活性酸素を抑えるだけでなく、ミトコンドリアが本来持つ修復・維持システムを支える可能性があるのです。

ただし、この研究はマウスを用いた実験であり、人に同じ効果があることを直接証明したものではありません。今後のヒト研究が期待されます。

ケルセチンを多く含む身近な食品

ケルセチンは特別な成分ではなく、私たちの身近な食品に含まれています。

食品ポイント
タマネギケルセチンを豊富に含む代表的な食品
リンゴ皮の部分に多く含まれる
ブロッコリーケルセチン以外の抗酸化成分も摂取できる
サニーレタスポリフェノールを比較的多く含む
緑茶・紅茶日常的に取り入れやすい

魚を食べるときの一工夫

研究結果をそのまま日常生活に当てはめることはできませんが、魚と野菜を組み合わせる食事は栄養学的にも理にかなっています。

例えば、

  • マグロの刺身にタマネギスライスを添える
  • カツオのたたきに薬味をたっぷり加える
  • 魚料理の副菜にブロッコリーを取り入れる
  • 食後にリンゴや緑茶を楽しむ

こうした工夫によって、魚の栄養と野菜のポリフェノールを同時に摂ることができます。

まとめ

魚はDHAやEPA、良質なたんぱく質など、多くの健康メリットをもたらしてくれる優れた食品です。

水銀を過度に恐れて魚を避けるのではなく、魚の種類や摂取頻度に配慮しながら、野菜や果物も組み合わせたバランスの良い食事を心がけることが大切です。

今回の研究は、ケルセチンがメチル水銀による脳のストレスからミトコンドリアを守る可能性を示した興味深い報告でした。

今日の食卓に魚料理が並ぶなら、ぜひタマネギやブロッコリー、リンゴ、緑茶なども一緒に取り入れてみてはいかがでしょうか。

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らべるびぃ予防医学研究所 | からだミネラル検査

脳と腸を繋ぐ鍵?自閉症スペクトラム(ASD)と『金属ミネラル』の関係

近年、「脳腸相関(脳と腸は深く繋がっている)」という言葉をよく耳にするようになりました。「緊張するとお腹が痛くなる」といった経験は誰しもがあると思いますが、実はそれだけではありません。

最近の研究では、自閉症スペクトラム障害(ASD)をはじめとする神経発達の特性を持つ方の多くが、便秘や下痢、腹痛といった「腸のトラブル(消化器症状)」を抱えていることが分かってきています。

「なぜ脳の特性であるはずのASDで、腸のトラブルが多いの?」

その謎を解き明かすための最新の鍵として、今世界中の研究者が注目しているのが「体内のミネラルバランス」です。

今回は、2025年に国際的な神経化学の専門誌(Journal of Neurochemistry)に掲載された最新レビュー論文(O’Grady & Grabrucker)をもとに、私たちの体(特に腸と脳)における有害金属と必須ミネラルの重要性について、分かりやすく紐解いていきましょう!

1. 論文が明かす「ミネラルバランスの破綻」とは?

私たちの体の中には、カルシウムや鉄、亜鉛など、生命を維持するために絶対に必要な「必須ミネラル」が存在します。一方で、環境中には水銀や鉛、アルミニウムといった、体にとって毒性となる「有害金属」も存在します。

健康な状態であれば、体はこれらを正しく選別し、必要なものを取り入れ、不要なものを排出する「恒常性(ホメオスタシス)」を保っています。

しかし、今回紹介する論文では、ASDの背景にはこの「ミネラルバランス(恒常性)の破綻」があり、それが腸の病態(消化器トラブルや腸内細菌叢の乱れ)を悪化させている大きな要因である可能性を指摘しています。

2. 要注意!体を脅かす「有害金属」の影響

環境汚染、食材、日用品などを通じて、私たちは気づかないうちに微量の有害金属を体に溜め込んでしまうことがあります。論文では、これらが腸に与えるダメージについて詳しく触れられています。

  • 水銀(Hg)や鉛(Pb):

これらは非常に強い毒性を持ち、腸に達すると「腸内細菌のバランス」を激変させてしまいます。善玉菌を減らし、悪玉菌を増やしてしまう原因になります。

  • アルミニウム(Al)やカドミウム(Cd):

腸の粘膜細胞同士を結びつけている「バリア」を破壊してしまうことが分かっています。これにより、腸の壁に隙間が空いてしまう「リーキーガット症候群(腸漏れ)」が引き起こされ、本来入ってはいけない毒素が血液中に漏れ出し、最終的に脳の炎症へと繋がってしまいます。

3. なぜ足りなくなる?防衛の要「必須ミネラル」

有害金属が体に侵入してきたとき、文字通り「盾」となって戦ってくれるのが、私たちが食事から摂取する必須ミネラルです。しかし、特性や環境の影響で、これらの重要なミネラルが不足しているケースが多いと論文は指摘しています。

特に注目すべきは以下の2つです。

① 亜鉛(Zn)の重要性

亜鉛は、腸の粘膜を強固に保ち、免疫をコントロールする超重要ミネラルです。さらに、体の中から有害金属(重金属)を捕まえて無毒化・排出する「メタロチオネイン」というタンパク質を作るために不可欠です。

亜鉛が不足すると、腸のバリアが弱くなるだけでなく、有害金属を追い出す力もガクッと落ちてしまいます。

② 鉄(Fe)のバランス

鉄は多すぎても少なすぎても腸内細菌に影響を与えます。悪玉菌の多くは鉄をエサにして増殖するため、腸内で鉄の吸収や代謝がうまくいかないと、腸内環境が悪化しやすくなります。

4. 有害金属 と 必須ミネラル の「椅子取りゲーム」

ここが最も面白い、かつ重要なポイントです。

実は、体の中にミネラルを取り込む「細胞のドア(受容体)」は、必須ミネラルも有害金属も同じドアを共有していることが多いのです。

例えば、体の中に「亜鉛」や「鉄」「カルシウム」が十分に満ちていれば、細胞のドアはこれらで埋まります。後から有害金属(鉛やカドミウムなど)がやってきても、入る隙間がありません。

しかし、もし体に必須ミネラルが不足していたらどうでしょう?

空いたドアから、有害金属が「ラッキー!」とばかりにすり抜けて、体内にどんどん吸収されてしまうのです。

つまり、「必須ミネラル不足」は「有害金属の吸収リスクを高める」という最悪の相乗効果を生んでしまいます。これが腸の炎症を引き起こし、自閉症スペクトラムで見られるような強い消化器症状(慢性的な便秘・下痢)や、脳への神経毒性へと繋がっていくというメカニズムが、近年の研究で徐々に明らかになってきました。

5. 私たちの生活に活かせるヒント

この論文の知見から、私たちが日常で意識できる大切なステップが見えてきます。

  • 「入れるな危険」:有害金属を避ける

・大型魚(マグロなど水銀のリスクがあるもの)の過剰摂取を避ける。

・古い水道管の鉛や、調理器具・日用品の素材に少し気を配る。

  • 「盾を強くする」:必須ミネラルをしっかり補給

・亜鉛を豊富に含む食材(牡蠣、レバー、ナッツ類など)を意識して摂る。

・加工食品の摂りすぎに注意する(加工食品に含まれる添加物「リン酸塩」などは、

亜鉛やカルシウムの吸収を阻害してしまいます)。

  • 「お腹を育てる」:腸内環境のケア

・発酵食品や食物繊維を摂り、有害金属に負けない強い腸内細菌を育てる。

まとめ

今回の論文は、「自閉症スペクトラム(ASD)の症状や生きづらさは、単に脳だけの問題ではなく、『体内のミネラルバランスの乱れ』と『腸の病態』が深く絡み合っている可能性がある」という、非常に希望のある視点を示してくれています。

ミネラルバランスを整え、腸を元気にすることは、ASDの当事者の方々の消化器トラブルを和らげるだけでなく、脳や神経の健やかな働きをサポートする上でも、とても大切なアプローチになりそうです。

毎日の食事や栄養、ぜひ一度見直してみてはいかがでしょうか?

【参考文献】

O’Grady, K., & Grabrucker, A. M. (2025). Metal Dyshomeostasis as a Driver of Gut Pathology in Autism Spectrum Disorders. Journal of Neurochemistry, 169(3). DOI: 10.1111/jnc.70041

■自閉症スペクトラム障害における幼少期ミネラルアンバランスの評価

自閉症スペクトラム障害における幼少期ミネラルアンバランスの評価(論文発表) – ら・べるびぃ予防医学研究所

■からだミネラル検査

https://www.lbv.jp/analysis/karada.html

■書籍「栄養素のチカラ」

栄養素のチカラ | ら・べるびぃ予防医学研究所 Online Shop

デトックスには「サウナ」より「運動」?汗から有害金属を効率よく出す方法

「デトックス(解毒)」という言葉をよく耳にしますよね。
体に溜まった有害金属を排出する目的で、サウナで汗を流している方も多いのではないでしょうか。

しかし、近年の研究では「汗のかき方によって、有害金属の排出量に差が出る可能性がある」ことが報告されています。

今回は、台湾の研究チームが発表した論文をもとに、汗と有害金属排出の関係について紹介します。

1. 汗は「天然のデトックス装置」

私たちは日々の生活(食事、水、空気など)を通じて、微量の有害金属(鉛、水銀、ヒ素など)を体内に取り込んでいます。これらは通常、尿や便などを通じて排出されますが、汗も排出経路のひとつです。

研究によると、ニッケル、鉛、クロムなど一部の金属は、尿よりも汗の中に高濃度で含まれる場合があることが報告されています。
つまり、汗をかくことは有害金属の排出に一定の役割を果たしている可能性があります。

2. 実験:サウナ vs ランニング

研究チームは、健康な男女12名を対象に、次の2つの条件で汗を採取し、成分を比較しました。

  • 動的発汗:トレッドミルでのランニング
  • 受動的発汗:サウナボックス内で座って発汗

どちらも20分間汗をかいた後、汗に含まれる以下5種類の金属濃度を測定しました。

  • ニッケル (Ni)
  • 鉛 (Pb)
  • 銅 (Cu)
  • ヒ素 (As)
  • 水銀 (Hg)

3. 結果:運動による汗の方が高濃度

分析の結果、次の4つの金属については、サウナよりも運動時の汗の方が有意に濃度が高いことが確認されました。

  • ニッケル (Ni)
  • 鉛 (Pb)
  • 銅 (Cu)
  • ヒ素 (As)

一方で、

  • 水銀 (Hg)

については、運動とサウナの間で明確な差は見られませんでした。

4. なぜ運動の方が排出されやすいのか?

研究では、次のような理由が考えられるとされています。

① 血流の変化
運動すると心拍数が上がり、体温も上昇します。これにより血液循環が活発になり、体内の物質が汗腺へ運ばれやすくなる可能性があります。

② 代謝の活性化
筋肉を動かすことでエネルギー代謝が高まり、組織に存在する金属の移動や排出が促進される可能性があります。

一方、サウナのような外部からの加熱は、主に皮膚表面の温度を上昇させるため、体内深部の循環への影響は運動ほど大きくない可能性が指摘されています。

5. 効果的に汗をかくためのポイント

この研究から言えるのは、単に体を温めるだけでなく、体を動かして汗をかくことも重要かもしれないという点です。

例えば、

  • 週に数回、軽く息が上がる程度の有酸素運動(ジョギングや早歩き)
  • 運動後にサウナを利用する

といった組み合わせも、発汗を促す一つの方法と言えるでしょう。

まとめ

「デトックス=サウナ」というイメージは強いですが、研究によれば運動による発汗の方が、一部の有害金属の濃度が高い汗が出る可能性が示されています。

もちろん、この研究は少人数の実験であり、汗だけで体内の有害金属が大きく減るかどうかは今後の研究が必要です。

それでも、健康のためには「体を動かして汗をかく習慣」を取り入れることが、さまざまな面でメリットがあると言えるでしょう。

出典: Kuan WH, et al. Excretion of Ni, Pb, Cu, As, and Hg in Sweat under Two Sweating Conditions. Int J Environ Res Public Health. 2022

当社が実施している毛髪ミネラル検査のデータでも、運動習慣のある群は、運動習慣のない群と比較して鉛濃度の平均値がやや高い傾向が確認されています。

ら・べるびぃ予防医学研究所
「知ることは、すべてのはじまり」
ミネラル分析の専門機関として、毛髪・血液・飲食物など様々な検体を分析しています。
2000年の創業以来、皆さまの健康に役立つ検査や情報を提供しています。
ら・べるびぃ予防医学研究所のミネラル検査へ

NHK「ヒューマニエンス」に取材していただきました

排出 〜美しく出す 生命の機能美〜

このたび、NHK BSヒューマニエンス 40億年のたくらみ
「排出 〜美しく出す 生命の機能美〜」にて、「排出」の一つとして「髪の毛」が紹介され、当社を取材していただきました。

初回放送は2026年3月7日(土)午後10:30〜(NHK BS)です。

取材には不慣れで大変緊張いたしましたが、どのような放送になるのか、今からとても楽しみにしております。

毛髪は「排出」の器官のひとつ

毛髪ミネラル検査は、もともと水銀分析の研究の中で、検体としての有用性が評価されてきました。

毛髪は、

  • 有害金属の濃度が比較的高く検出されやすい
  • 数か月単位の情報を保持する
  • 採取が非侵襲的である

という特徴があります。

現在のところ、

  • 毛乳頭 → 毛幹へは移行する
  • 毛幹 → 毛乳頭(血管側)へ戻る機構は確認されていない

とされており、毛髪に取り込まれることは、実質的に体外への排出を意味します。

歴史を語る検体としての毛髪

毛髪は長期間情報を保持します。

そのため歴史的にも価値があり、

  • ナポレオンのヒ素曝露説
  • ベートーベン の鉛曝露説

などは、遺髪や遺骨の分析結果をもとに議論されてきました。毛髪は「その時代の体内環境」を記録する、いわばタイムカプセルのような存在です。

毛髪は環境中でも分解されにくい

毛髪はケラチンという硫黄を多く含むタンパク質でできています。
この構造は非常に強固で、

  • 土壌中でも特殊な微生物が存在しない限り分解されにくい
  • 水に溶けにくい難溶性タンパク質

という特徴があります。

水銀は硫黄と強く結合する性質があるため、いったん毛髪に取り込まれると、容易には再放出されません。

環境省資料『不思議な水銀の話』でも紹介されているように、毛髪や体毛は環境中でも分解されにくく、水銀の再循環を抑える一時的な貯留(シンク)として働く可能性が示唆されています。さらに、体毛は食用に適さない、仮に摂取しても消化されにくいという性質から、水銀の生物濃縮経路になりにくいと考えられています。

毛髪や体毛は環境中でも分解されにくく、水銀の再放出を妨げていると考えられる。体毛は食用に適さず、また、食べても消化されずに残され、水銀の生物濃縮につながらないため、結果的にヒトや生物を水銀ばく露から守っていることになる。

不思議な水銀の話より抜粋

https://www.env.go.jp/chemi/tmms/husigi/hg_husigi_23.pdf

その意味で、毛は単なる「老廃物」ではなく、結果的に生物を水銀曝露から守る仕組みの一端を担っているとも言えるでしょう。

ぜひご覧いただけましたら幸いです。

毛髪ミネラル検査はこちらから

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環境汚染に立ち向かう「光る」助っ人?微生物の力を借りたゼブラフィッシュの挑戦

今日は、私たちの食卓や環境に潜む深刻な脅威「メチル水銀」に立ち向かう、最先端のバイオテクノロジーをご紹介します。

2025年2月12日付の『Nature Communications』に掲載された驚きの研究。なんと、微生物の遺伝子を組み込んだ動物が、有害な水銀を自ら無害化し、空気中に逃がしてくれるというのです。

1. なぜ「メチル水銀」は厄介なのか?

メチル水銀は非常に強い毒性を持つ物質で、特に脳や神経系に悪影響を及ぼします。その最大の特徴は、「生物濃縮」です。

  • 蓄積の連鎖: プランクトンが水中の微量な水銀を取り込む。
  • 濃縮の加速: 小さな魚がそれを食べ、さらに大きな魚がそれを食べる。
  • ピラミッドの頂点: 食物連鎖を上がるほど、体内の水銀濃度は跳ね上がります。

私たちが食べる大型魚(マグロなど)に水銀摂取のガイドラインがあるのはこのためです。一度体内に入ったメチル水銀は排出されにくく、これまでの技術では、環境中の生物から水銀を効率的に取り除くのは極めて困難とされてきました。

2. 微生物の「武器」を動物に授ける

自然界には、水銀を分解できるタフな微生物が存在します。彼らは以下の2つの強力な酵素(武器)を持っています。

  1. MerB(有機水銀リアーゼ): メチル水銀を、より毒性の低い無機水銀に分解する。
  2. MerA(水銀還元酵素): 無機水銀を、揮発しやすい「金属水銀」に変える。

オーストラリアのマッコーリー大学を中心とする研究チームは、この微生物の遺伝子を、ショウジョウバエ(無脊椎動物)とゼブラフィッシュ(脊椎動物)に導入することに成功しました。

なぜゼブラフィッシュ?

体にシマ模様がある小さな淡水魚で、「実験界のスター選手」です。

  • 遺伝子の約70%が人間と共通している。
  • 体が透明で、体内の変化を観察しやすい。
  • 繁殖が早く、世界中の研究室で標準的に使われている。

3. 実験の結果:水銀が半分以下に!

この「エンジニアリング(遺伝子改変)された動物」たちにメチル水銀を与えたところ、劇的な効果が確認されました。

  • 蓄積量が50%以上減少: 通常の個体に比べ、体内に残る水銀が半分以下になりました。
  • ガスとして放出: 体内で分解された水銀が、極めて微量かつ無害なレベルの「金属水銀蒸気」となって体外へ放出されました。
  • 圧倒的な生存率: 通常なら死んでしまうような高濃度の水銀環境でも、彼らは元気に生き延びることができました。

4. この研究が変える未来と、乗り越えるべき壁

「遺伝子組み換え動物を自然に放つ」ことには慎重な議論が必要ですが、この技術は未来の環境を守る大きな鍵になるかもしれません。

  • 養殖の安全性向上: 水銀汚染が懸念される海域でも、魚自らに解毒能力を持たせることで安全な食材を確保する。
  • バイオレメディエーション(生物修復): 汚染地域の生態系で、食物連鎖を通じて効率的に水銀を「回収・気化」させる。
  • 廃棄物処理の効率化: 水銀汚染された有機廃棄物を、動物の力を借りてクリーンにする。

もちろん、実用化には「遺伝子改変個体が野生種に影響を与えないためのセーフガード(不妊化など)」や、倫理的な法整備が欠かせません。

これまでは「汚染されたら手出しできない」と考えられてきた食物連鎖の中の水銀。それを「生物自らの力で掃除させる」という逆転の発想は、環境保護の新しい扉を開く一歩になるはずです。

参考資料:

 Tepper, K., et al. “Methylmercury demethylation and volatilization by animals expressing microbial enzymes.” Nature Communications (12 February 2025).

関連記事:

魚好きは要注意?血中水銀と糖尿病の意外な関係

2025年、国立環境研究所などの研究チームは、日本人勤労者を対象とした大規模調査の結果を公表しました。
これまで欧米を中心に同様の研究は行われてきましたが、「魚介類(水銀・ヒ素)」や「お米(カドミウム・ヒ素)」の摂取量が多い日本人に特化したデータは非常に貴重です。

研究の核心:水銀リスクが「約2倍」に

この研究では、血中のカドミウム・水銀・鉛・ヒ素の濃度と、2型糖尿病の発症リスクとの関連を分析しました。その結果、次のような事実が明らかになりました。

  • 水銀濃度が高いグループは、最も低いグループと比べて、2型糖尿病の発症リスクが約2倍
  • 一方で、カドミウム・鉛・ヒ素については、明確な関連は認められなかった

数ある重金属の中で、「水銀」だけが際立った関連を示した点は、非常に注目すべき結果です。

なぜ「水銀」だけがリスクを高めたのか?

水銀は主に大型の魚を食べることで体内に取り込まれます。
研究チームは、血中水銀濃度が高い状態が、

  • 膵臓でのインスリン分泌を低下させる可能性
  • 酸化ストレスを増大させ、糖代謝に悪影響を及ぼす可能性

といったメカニズムを通じて、糖尿病リスクを高めているのではないかと指摘しています。

日本人特有の背景がカギ

日本人は欧米人と比べて魚を食べる習慣が強く、水銀摂取量の80%以上が魚介類由来とされています。
そのため、日本人は他国とは異なる水銀ばく露環境にあります。

今回の研究は、「健康に良い」とされてきた魚食文化の裏側に潜むリスクを、日本人のデータで初めて明確に示した点で、非常に重要な意味を持っています。

水銀リスクを抑える「賢い魚の選び方」

水銀と糖尿病リスクの関連が示されたとはいえ、魚は良質なタンパク質やEPA・DHAなどを含む、優れた食品です。
大切なのは、「魚を避けること」ではなく、「どの魚を、どれくらい食べるか」です。

1. 「食物連鎖」の低い魚を選ぶ

水銀は食物連鎖を通じて、大きな魚ほど体内に蓄積されやすい(生物濃縮)性質があります。

リスク度魚の種類(例)選び方のポイント
低い(安心)アジ、イワシ、サバ、サンマ、サケ、タイ食物連鎖の下位にいる小型〜中型魚、回遊魚
注意が必要本マグロ、メバチマグロ、カジキ、キンメダイ、イルカ大型・深海・肉食性の魚

2. 厚生労働省のガイドラインを活用する

厚生労働省は、特に水銀の影響を受けやすい妊婦さん向けに、魚介類摂取の目安を示しています。
一般の方にとっても、リスク管理の参考になります。

  • 週1回までが目安:本マグロ、メバチマグロ、キンメダイ
  • 週2回までが目安:キハダマグロ、ビンナガマグロ
  • 特に制限なし:ツナ缶、サケ、アジ、サバ など

3. 「ツナ缶」は意外と安心?

「マグロ」と聞くと水銀が心配になりますが、一般的なツナ缶(ライトミート)に使われるのは、キハダマグロやカツオなど、水銀蓄積が比較的少ない種類です。
そのため、本マグロの刺身を頻繁に食べるよりも、リスクは低いと考えられています。

当社の代表が3ヶ月間キハダマグロ(100g)を毎日食べ続けた実験も行っておりますので、ぜひご参考ください。

最大の防御策は「分散」

今回の研究が伝えているのは、「魚を食べるな」というメッセージではありません。
特定の大型魚に偏らないことが、最大のリスク対策です。

  • 週の半分は、アジ・サバ・イワシなどの青魚を中心に
  • 肉類や大豆製品も取り入れ、タンパク源を分散させる

こうした小さな工夫で、魚の健康効果を活かしながら、重金属リスクを抑えることができます。

参考資料

水銀の蓄積を知りたい場合はからだミネラル検査がお勧めです。最大で34種類の元素を調べることが可能です。

汚染の履歴書 – 規制は進んでも「水銀」は増える?海洋水銀の不都合な真実

人類はかつて、海を無限のゴミ捨て場と考えていました。しかし今、その代償が「食卓の危機」として跳ね返ってきています。

2014年の歴史的論文から、2025年3月の最新レポートまでを繋ぎ合わせると、驚くべき海洋汚染の現在地が見えてきました。私たちが向き合っているのは、過去の遺産ではなく、進行形の危機です。

1. 原点:海の水銀はすでに「3倍」になっていた

すべての始まりは、2014年に『Nature』誌に掲載されたカール・ランボーグ氏らの研究でした。彼らは世界中の海を調査し、産業革命前と現在の水銀量を比較するという気の遠くなるような解析を行いました。

  • 衝撃の事実: 人類が排出した水銀により、海洋表面に近い層の水銀濃度は、産業革命前と比較して3倍にまで跳ね上がっていました。
  • 負の遺産: 放出された水銀の約3分の2は、まだ水深1,000mより浅い場所に留まっており、私たちの生態系にダイレクトに影響を与え続けています。

出典:A global ocean inventory of anthropogenic mercury based on water column measurements; Nature (2014)

2. 2025年の新事実:排出規制 vs 温暖化の「追いかけっこ」

2014年以降、国際的な「水俣条約」によって水銀の排出規制は劇的に進みました。実際、大気中の水銀濃度は過去20年で減少しています。しかし、事態はそう単純ではありません。

2025年3月に発表された最新研究(PNAS誌)は、私たちに「第2の警告」を発しています。

  • 「60%増」の衝撃: たとえ人間が直接出す水銀を減らしたとしても、海水温の上昇によって、2060年までに野生魚に含まれるメチル水銀濃度が約60%増加すると予測されました。
  • アジアが直面するリスク: 特に魚の消費量が多いアジア地域では、この水銀増加が新生児のIQ低下などを引き起こし、莫大な経済損失をもたらすと指摘されています。

出典:Climate change amplifies neurotoxic methylmercury threat to Asian fish consumers; PNAS (2025)

3. なぜ「排出」を減らしても「毒」が増えるのか?

「出す量を減らしたのになぜ毒が増えるのか?」 その犯人は、皮肉にも「気候変動」です。

  1. 微生物の活性化: 海水温が上がると、無害な水銀を猛毒の「メチル水銀」に変える微生物がより活発に働きます。
  2. 魚の「爆食」: 水温が高いと魚の代謝が上がり、生きるためにより多くの餌を食べるようになります。その結果、餌に含まれる水銀がこれまで以上に体内に蓄積(生物濃縮)されるのです。
  3. 土壌からの「再放出」: 過去に地表に沈着した水銀が、温暖化による豪雨や森林火災で再び川や海へ流れ出すという「二次汚染」も深刻化しています。

4. 私たちはどう向き合うべきか:安全な食卓を守るために

2014年に「3倍」という現実を知ってから10余年。排出を抑える努力の裏で、今は「温暖化」という新たな敵が立ちはだかっています。

  • 賢い「食」の選択: 汚染リスクを正しく理解しましょう。食物連鎖の上位にいる大型魚(マグロ、サメ、メカジキなど)の摂取頻度を調整する知識が、家族の健康を守ります。
  • 根本解決への視点: 水銀規制だけでは不十分です。脱炭素(温暖化防止)こそが、将来の「安全な食卓」に直結しているという認識が不可欠です。

2025年の最新データは、海洋汚染が「終わった問題」ではなく、「気候危機そのもの」であることを示しています。私たちの世代が何を食べるか、そして次の世代にどんな海を残せるか。その答えは、今この瞬間の環境アクションにかかっています。

からだミネラル検査では、ここ数か月の間に体内から毛髪へ取り込まれた水銀の平均値を見ることができます。
血液や尿が「今この瞬間の情報」を教えてくれるのに対し、毛髪は伸びる過程で情報が記録されていくため、これまでの状態を振り返ることができます。

地層を調べることで、過去の環境や出来事がわかるように、毛髪もまた、身体の履歴を残す検体なのです。

お読みいただきありがとうございました。

ら・べるびぃ予防医学研究所
「知ることは、すべてのはじまり」
ミネラル分析の専門機関として、毛髪・血液・飲食物など様々な検体を分析しています。
2000年の創業以来、皆さまの健康に役立つ検査や情報を提供しています。
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毛髪は「排泄器官」なのか?

― 排泄と排出を考える ―

検査会社、特に毛髪分析を扱う会社でなければ、あまり関心を持たれないテーマかもしれません。
しかし私たちは日々、毛髪という検体を扱う中で、どうしても避けて通れない問いに直面します。

「毛髪は排泄器官なのか?」

当社でもこれまで、「毛髪は排泄の役割を担っている」という説明をしてきました。

では、ここであらためて考えてみたいと思います。
そもそも「排泄」とは何なのでしょうか。

排泄と排出の違い

一般に排泄とは、体内で不要になった物質を代謝・処理したうえで意図的に体外へ出す仕組みを指します。

代表的な排泄経路は、尿や便です。これらは明確に「排泄の主役」と言えるでしょう。

一方で、排出という言葉は、より広い意味を持ち、意図的かどうかは問わずに結果として体外へ出た現象全般を指します。

この定義に照らすと、毛髪は「排出している器官」であることは間違いありません。

なぜなら、毛髪には高濃度の有害金属が取り込まれているからです。

毛髪は「意図的に」有害金属を取り込んでいるのか?

ここで一つ、疑問が浮かびます。

毛髪は、有害金属を体にとって不要なものとして認識し、意図的に取り込んでいるのか?

それとも、たまたま通過点に、取り込みやすい形の有害金属が存在していただけということなのでしょうか。

水銀を例に考える

毛髪に多く取り込まれる有害金属として、水銀があります。

大まかな推定ですが、摂取した水銀のうち約8%程度が毛髪に取り込まれると考えられています。※なお、水銀の排泄の大部分は便で行われます。

排泄の主役である便と直接比較することは難しいため、ここでは尿中水銀量を基準にしてみます。

尿中を「1」とした場合、毛髪はおおよそ「0.3」となります。

これは決して小さな値ではなく、毛髪も一定の役割を果たしていると評価できる数字です。ただし、繰り返しますが、排泄の主役はあくまで尿と便です。

なぜ毛髪は水銀を取り込みやすいのか?

その理由は、水銀の「形」にあると考えられます。

私たちが日常的に摂取する水銀の多くは、金属水銀や水銀イオンではなく、メチル水銀です。主な摂取源は魚介類です。

このメチル水銀は、ほぼ100%吸収されシステインと結合しメチオニンというアミノ酸によく似た構造になります。ほぼ「アミノ酸の顔をした物質」と言ってよいでしょう。

いわば「優等生の皮をかぶった半グレ」のような存在です。

毛髪は「材料」として取り込んでいるのでは?

毛髪はケラチンというタンパク質でできています。
タンパク質はアミノ酸の集合体です。
つまり、アミノ酸は毛髪の材料そのものです。

メチオニンによく似た形をした「メチル水銀+システイン」の複合体を、「お前は有害物質だから排除してやる」という判断で取り込んでいるのか、それとも、「ちょうどいい、毛髪の材料になる」と誤認して取り込んでいるのか。

後者の方が、現実的ではなのではないかと考えます。

もし体が「メチル水銀+システイン」の複合体を完全に「悪者」と認識しているのであれば、血液脳関門を通過させるはずがないと思うのです。

ヒ素との対比が示すもの

ここで、もう一つ重要な事実があります。

日本人が最も多く摂取している有害金属はヒ素です。水銀・カドミウム・鉛の10〜20倍の摂取量があります。

では、ヒ素は水銀の10〜20倍、毛髪に取り込まれているのでしょうか?

答えは NO です。

ヒ素の毛髪への取込量は水銀の約1/30〜1/40程度です。

(※もちろん個人差はあります)

この事実は、毛髪が「有害金属を無差別に排出しているわけではない」ことを示唆しています。

毛髪は排泄器官なのか?(私見)

毛髪に一度取り込まれた水銀が、再び体内に戻る機構は、現在のところ確認されていません。

その意味では、毛髪に取り込まれ、結果として無毒化される

という点から、毛髪が排泄の一部を担っている、という考え方は間違いではないと思います。ただしそれは、

  • 体が有害物質として選択的に排除しているのか
  • アミノ酸に似た構造ゆえに、材料として取り込んでいる結果なのか

この点については、現時点では断定できません。

水銀は結果として毛髪に取り込まれることで体外へ出ていくため、広い意味では「デトックス」と言えると思います。

しかしその本質が「排泄」なのか、「偶発的な排出」なのか、まだまだ考える余地があるのではないでしょうか。

これはあくまで、会社としての見解ではなく、私個人の考えです。

最後までお読みいただきありがとうございました。

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執筆者:筒井大海