【最新研究】ピロリ菌が重いつわり(悪阻)を長引かせる?!

妊娠中のつわり(悪阻)は、多くの妊婦さんにとって非常につらい経験です。中には、あまりにも吐き気や嘔吐が重く、点滴や栄養補給のために入院が必要になる「重症妊娠悪阻」に発展してしまうケースもあります。

この重い悪阻の入院期間が、意外な「菌」と関連している可能性が、日本の最新研究から示唆されました。その菌とは、胃の中に潜むあの「ピロリ菌(ヘリコバクター・ピロリ)」です。

ピロリ菌抗体陽性の妊婦さんは「入院が長引く」傾向に

日本医科大学武蔵小杉病院と付属病院の共同研究チームは、重症妊娠悪阻で入院した妊婦さん164人のデータを後ろ向きに解析しました。

注目されたのは、血液中のピロリ菌に対する抗体(IgG)の有無です。この抗体が陽性ということは、過去にピロリ菌に感染していた、あるいは現在も感染していることを示しています。

解析の結果、以下の点が明らかになりました。

  1. 入院期間が有意に長い
    • 抗体陽性群の入院中央値:24
    • 抗体陰性群の入院中央値:15
    • 陽性群は陰性群に比べ、1.6も入院期間が長い結果となりました。(P=0.032)
  2. 長期入院(21日以上)の独立したリスク因子
    • 様々な要因を調整した後も、入院が長期化する最も重要な独立したリスク因子として、ピロリ菌抗体陽性が確認されました。(オッズ比 4.665)

この結果は、ピロリ菌に感染している(または過去に感染していた)妊婦さんは、重症悪阻で入院した場合に、そうでない妊婦さんよりも入院が長期化しやすいことを強く示唆しています。

なぜピロリ菌が重症悪阻と関連するのか?

妊娠悪阻の原因には、妊娠初期に増えるホルモン「ヒト絨毛性ゴナドトロピン(hCG)」などが知られています。

近年、このピロリ菌感染と悪阻の関連が指摘されてきましたが、日本人妊婦を対象とした詳細な研究はこれまで十分ではありませんでした。

ピロリ菌が悪阻の重症度に関わるメカニズムとしては、ピロリ菌が作り出す毒素(特にVacA)が、嘔吐を引き起こす作用がある可能性などが考えられています。今回の研究は、この関連性を日本の臨床データで裏付けた形です。

 早期のピロリ菌チェックが「つわり対策」の鍵に?

この研究の著者らは、「抗H. pylori IgG抗体の検査で、入院が長引きやすい妊婦を特定できる可能性が示唆された」と述べています。

今回の結果から、以下のような対策が考えられます。

  • 入院中のモニタリング強化:ピロリ菌抗体陽性の妊婦さんは、入院中、より注意深く観察し、体調管理を徹底することで、重症化や長期化を防ぐ助けになる可能性があります。
  • 妊娠前ケア:妊活中や妊娠を計画している女性が、あらかじめピロリ菌の検査を受け、感染が判明した場合は除菌治療を行うことで、重症悪阻の予防につながる可能性があります。

ただし、著者らも強調しているように、現時点では「妊娠前のピロリ菌スクリーニングや除菌が、悪阻の予防に有効かどうか」はまだ仮説の段階です。今後、前向き研究によって、その有効性や費用対効果を検証していく必要があります。

妊婦さんに知っておいてほしいこと

今回の研究は、重いつわりの背景に、ピロリ菌感染という「予防・対策が可能な要因」が潜んでいる可能性を示しました。

「重症悪阻で入院が長引くかもしれない」というリスクを事前に知ることは、医師にとっても妊婦さんにとっても大きな意味があります。

妊娠を考えている方は、一度ピロリ菌のチェックを検討してみるのも良いかもしれませんね。

参考文献

  • Helicobacter pylori Infection Is a Risk Factor for Severe Hyperemesis Gravidarum Requiring Prolonged Hospitalization. J Obstet Gynaecol Res. 2025 Oct;51(10):e70099. doi: 10.1111/jog.70099.

https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/41054201

■ピロリ菌が気になる方はごちら

 ピロリ菌検査キット | ら・べるびぃ予防医学研究所 Online Shop

ら・べるびぃ予防医学研究所
「知ることは、すべてのはじまり」
ミネラル分析の専門機関として、毛髪・血液・飲食物など様々な検体を分析しています。
2000年の創業以来、皆さまの健康に役立つ検査や情報を提供しています。
ら・べるびぃ予防医学研究所のミネラル検査へ