「最近、人の名前がすぐに出てこない」
「集中力が続かなくなった気がする」
「運動後のコンディションが気になる」
そんな方に、近年注目されている成分があります。
それがエルゴチオネインです。
エルゴチオネインは、キノコ類などに含まれる天然の含硫アミノ酸の一種。人間の体内では合成できないため、食事などから摂取する必要があります。
そして現在、エルゴチオネインは、「抗酸化」、「脳の健康」「記憶力・学習能力」「注意力」「運動・コンディショニング」といった幅広いテーマで研究が進められています。
今回は、エルゴチオネインがなぜ注目されているのか、中高年とアスリート、それぞれの視点から見ていきましょう。
エルゴチオネインが注目される理由
エルゴチオネインの大きな特徴のひとつが、体内に取り込むための専用の輸送体「OCTN1」が存在することです。
人間はエルゴチオネインを自分で作ることができません。
それにもかかわらず、私たちの体にはエルゴチオネインを取り込む仕組みが備わっています。
エルゴチオネインはOCTN1を介して体内に取り込まれ、特に酸化ストレスの影響を受けやすい組織などに存在することが研究されています。
その中でも注目されているのが脳です。
エルゴチオネインには抗酸化作用や抗炎症作用などが報告されており、脳を含むさまざまな組織を酸化ストレスから守る働きが研究されています。
「抗酸化」がなぜ大切なの?
私たちの体では、呼吸をしてエネルギーを作る過程などで、活性酸素を含む酸化ストレスが発生します。
活性酸素は、決して「悪いもの」だけではありません。
免疫など、体にとって必要な役割もあります。
しかし、酸化ストレスが過剰になれば、細胞や生体分子にダメージを与える可能性があります。
そこで重要になるのが、体内に備わっている抗酸化システムです。
エルゴチオネインは、この酸化ストレスに対抗する抗酸化成分のひとつとして研究されています。
2025年のシステマティックレビューでは、エルゴチオネインと認知機能・加齢関連の神経疾患について19件の研究を検討し、抗酸化作用、抗炎症作用、神経保護などが認知機能との関係で議論されています。
つまりエルゴチオネインは、酸化ストレスから体を守る仕組みを考えるという視点で注目されている成分なのです。
中高年が気になる「記憶力」とエルゴチオネイン
年齢を重ねると、
「人の名前が思い出せない」
「何をしようとしていたか忘れてしまう」
「以前より物覚えが悪くなった気がする」
など、記憶力について気になる場面が増えてきます。
もちろん、こうした変化には年齢、睡眠、運動、ストレス、生活習慣など、さまざまな要因が関係します。
その中で現在研究されているのが、エルゴチオネインと認知機能の関係です。
エルゴチオネインは脳に取り込まれることが知られており、抗酸化・抗炎症作用や神経保護などを通じて、脳の健康に関係する可能性が研究されています。
ヒトを対象にした研究でも「記憶・学習」が検討されている
エルゴチオネインについて興味深いのが、動物実験だけではなく、ヒトを対象とした研究も行われていることです。
2024年に発表された二重盲検・ランダム化・プラセボ対照試験では、60歳以上で軽度認知障害のある19人を対象に、エルゴチオネインの摂取が1年間調べられました。
その結果、エルゴチオネインを摂取したグループでは、学習・記憶に関する検査の成績が改善し、神経損傷の指標として研究されているニューロフィラメント軽鎖(NfL)の血中濃度も安定していました。
これは非常に興味深い結果です。
ただし、参加者は19人と少なく、対象も軽度認知障害のある高齢者です。
そのため、「エルゴチオネインを摂れば記憶力が向上する」と一般化することはできません。
現時点では、「エルゴチオネインと記憶・学習能力の関係について、ヒトでも研究が進んでいる」
と捉えるのが適切でしょう。
「記憶力」だけではない。注意力にも注目
私たちの認知機能は、記憶だけで成り立っているわけではありません。
何かを見る。
↓
注意を向ける。
↓
情報を処理する。
↓
記憶する。
↓
必要なときに思い出す。
このように、さまざまな能力が組み合わさっています。
特に中高年になると、記憶力だけでなく、「集中できる」「注意を持続できる」という能力も日常生活では重要です。
そして、日本ではすでに、エルゴチオネインを機能性関与成分とする機能性表示食品が届け出られています。
エルゴチオネインについて、中高年の方の記憶力及び注意力を維持する機能を表示する届出もあります。
これは、エルゴチオネインが「記憶力・注意力」という観点でも研究されてきたことを示す、ひとつの例といえるでしょう。
ただし、機能性表示食品は、事業者が科学的根拠などを消費者庁に届け出る制度であり、国が個別の商品について効果を審査・認定する特定保健用食品(トクホ)とは制度が異なります。
では、アスリートには?
エルゴチオネインは、運動との関係についても研究されています。
運動すると、筋肉は大量のエネルギーを使います。
特に長時間の運動や高強度のトレーニングでは酸素消費量が増え、それに伴って酸化ストレスや炎症反応も生じます。
しかし、酸化ストレス=悪というわけではありません。
運動による適度なストレスは、身体がトレーニングに適応していくためにも重要です。
そのためアスリートにとって大切なのは、酸化ストレスを全部なくすことではなく、運動による負荷と、身体の抗酸化・回復システムのバランスと考えることができます。
エルゴチオネインと運動パフォーマンス
エルゴチオネインについては、運動パフォーマンスや筋肉の回復との関係も研究されています。
2022年の動物実験では、エルゴチオネインを摂取したマウスで、疲労困憊までの走行時間が延長し、運動後の酸化ダメージや炎症関連の指標が低下しました。
ただし、これはマウスを使った研究です。
人間のアスリートにそのまま当てはめることはできません。
2025年のレビューでも、エルゴチオネインは運動による酸化ストレスや回復をサポートする可能性が検討されていますが、運動能力を高める効果については、まだ十分な証拠がないとされています。
つまり、エルゴチオネインを摂れば速く走れるという段階ではありません。
しかし、運動によって生じる酸化ストレスや身体のコンディショニングという観点では、今後の研究が期待される成分です。
アスリートは「筋肉」だけを使っているわけではない
ここが、エルゴチオネインとスポーツを考えるうえで面白いポイントです。
アスリートは、筋肉だけで競技しているわけではありません。
見る。判断する。集中する。反応する。そして、身体を動かす。
特に球技や格闘技、モータースポーツなどでは、瞬間的な判断や注意力がパフォーマンスに大きく関わります。
さらに、ランニングのような持久系競技でも、長時間の運動中に集中力を維持することは重要です。
つまり、アスリートにとって「脳」も重要なコンディショニング対象と考えることができます。
2026年のレビューでは、エルゴチオネインと運動について、酸化ストレス、ミトコンドリア機能、神経保護、認知機能などの観点から今後の研究が検討されています。
一方で、現時点ではエルゴチオネインと運動を組み合わせた場合の認知機能への効果を直接調べた研究はまだありません。
ここは、今後の研究に期待したいところです。
中高年とアスリートに共通する「コンディショニング」
ここまで読むと、中高年の記憶力とアスリートの運動は、まったく違う話に見えるかもしれません。
しかし、共通するキーワードがあります。
それが、「コンディショニング」です。
年齢を重ねれば、脳を含めた身体のコンディションを維持することが大切になります。
一方、アスリートはトレーニングによって身体に負荷をかけ、その後の回復やコンディションを整えていく必要があります。
その両方に関係するのが、酸化ストレスと、それに対する身体の防御システムです。
エルゴチオネインは、抗酸化・抗炎症、脳の健康、認知機能、そして運動との関係など、さまざまな角度から研究されている成分です。
エルゴチオネインは「魔法の成分」ではない
エルゴチオネインには、非常に興味深い研究があります。
しかし、
「飲めば記憶力が上がる」
「飲めば集中力がアップする」
「飲めば運動能力が上がる」
と単純に考えることはできません。
現在の研究から分かっていることと、まだ分かっていないことを分けて考えることが大切です。
現時点で注目されているのは、
- 抗酸化・細胞保護との関係
- 脳への取り込み
- 記憶・学習との関係
- 注意力との関係
- 加齢に伴う認知機能との関係
- 運動による酸化ストレスとの関係
- 運動後の回復との関係
などです。
そして日本では、エルゴチオネインを機能性関与成分とした機能性表示食品も届け出られています。
だからこそエルゴチオネインは、何かを劇的に変える成分ではなく、毎日のコンディションを考えるときに知っておきたい成分として注目してみる価値があるのではないでしょうか。
食事、睡眠、運動を基本にしながら、必要に応じて栄養を補う。
その選択肢のひとつとして、エルゴチオネインを取り入れてみる。
これからさらに研究が進むことが期待される成分です。
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タブレットタイプで飲み込むものですが、なめてみると旨味があります。
ガリガリと食べると濃いだしの素のような味です。
さすがきのこ。
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※きのこが苦手なスタッフにはNGでした。
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参考文献
Yau YF, et al. Investigating the efficacy of ergothioneine to delay cognitive decline in mild cognitively impaired subjects: A pilot study. Journal of Alzheimer’s Disease. 2024.
The role of Ergothioneine in cognition and age-related neurodegenerative disease: a systematic review. Inflammopharmacology. 2025.
Fovet T, et al. Ergothioneine Improves Aerobic Performance Without Any Negative Effect on Early Muscle Recovery Signaling in Response to Acute Exercise. 2022.
Anserine, Balenine, and Ergothioneine: Impact of Histidine-Containing Compounds on Exercise Performance. 2025.
Wazny VK, et al.Ergothioneine and exercise: A match made in cognitive heaven? Ageing Research Reviews. 2026.
消費者庁「機能性表示食品について」