「ピロリ菌」という名を聞いたことがありますか?正式名称は ヘリコバクター・ピロリ(Helicobacter pylori)。このらせん状の細菌は胃の粘膜にすみつき、慢性的な胃炎や胃潰瘍、さらには胃がんと強く関連することがわかっています。世界保健機関(IARC)はピロリ菌を発がん性物質(Group 1)に分類しています。

なぜ「酸の海」で生きられるの?
普通、胃は強い酸性(pH1〜2)なので細菌は生きにくい場所です。ピロリ菌は次の仕組みでこの環境を生き延びます。
- ウレアーゼを出して尿素を分解 → アンモニアで局所的に中和する。
- 胃の粘液層の中に潜り込み、直接酸にさらされにくい場所にいる。
これらによって「自分の周りだけ環境をやわらげる」ことで生存します。
どんな病気と関係するの?
- 慢性胃炎・胃潰瘍・十二指腸潰瘍 の主要な原因の一つです。
- 胃がんリスクの上昇:複数の疫学研究で、ピロリ陽性者は陰性者と比べて胃がんリスクが高いことが示されています。日本の多目的コホート研究でも、陽性者でおよそ5倍程度のリスク上昇が報告されています。
若い世代では減っている — でも高齢者にはまだ多い
上下水道の普及や衛生環境の改善により、近年は若い世代の感染率が大きく低下しています。一方で高齢者世代は依然として感染率が高いままです(世代差がはっきりしています)。日本でもこの変化は確認されています。PMC 厚生労働省
除菌(治療)は必要? — 効果と注意点
- 早めの除菌は胃がんリスクを減らすというエビデンスが複数の研究で示されています。特に萎縮や腸上皮化生(=すでに粘膜が変化している状態)になる前に除菌すると効果が大きい可能性があります。Oxford Academic
- ただし、すでに腸上皮化生や異形成がある段階では、除菌をしても胃がんリスクが十分に低下しないという報告もあり、効果は病変の進行度に依存します。除菌は「早めが肝心」と理解してください。PubMed
- 日本ではピロリ菌除菌療法は公衆衛生上重要とされ、医療制度の整備や保険適用の拡充が進められています。厚生労働省 国立循環器病研究センター
ピロリ菌と胃がん以外の関係
- 特発性血小板減少性紫斑病(ITP):一部の患者ではピロリ菌を除菌すると血小板数が改善することが報告されていますが、全例に当てはまるわけではなく研究の積み重ねが必要です。PMCPubMed
- アレルギーや喘息との逆相関(幼少期に感染しているとアレルギーが少ない、という疫学的所見)を示す報告もあり、ピロリ菌が持つ“免疫系への影響”は一面的ではありません。これらは「ピロリ菌=完全な悪者」ではないという議論の根拠になっています。JAMA NetworkFrontiers
ピロリ菌が気になる方へ 〜まずは検査を〜
胃の不調が続いていたり、家族に胃がんの既往がある方は、一度ピロリ菌の検査を受けてみることをおすすめします。
早期に発見して除菌治療を行えば、将来の胃がんリスクを減らす大きな一歩になります。
